十一 もう一つ、台なしになった評判
町から修道院までは、せいぜい一キロちょっとしかありませんでした。
「アリョーシャ」は「カテリーナ」の家から帰っているところですね。
この時刻になると人気のまったくない道を、「アリョーシャ」は急いで歩いていきました。
もうほとんど夜になっており、三十歩離れるともう物の形を判別することもできませんでした。
(123)の計算によると、三十歩というのは23~4mといったところでしょう。
道のりの半ばほどのところに四辻がありました。
その四辻に、一本だけ離れて立っている柳の下に、何やら人影が見えました。
「アリョーシャ」が四辻に足を踏み入れたとたん、その人影がつと動き、とびかかってきて、凄まじい声で叫びました。
「金を出すか、生命をよこすか!」
「なんだ、兄さんじゃありませんか!」
ひどく震えあがった「アリョーシャ」は、びっくりして言いました。
「は、は、は!思いがけなかったろ?どこでお前を待っていようかと思ってな。彼女の家のそばでか?だが、あそこからは道が三本に分かれているから、見のがすかもしれない。さんざ考えた末に結局ここで待つことに決めたんだ。なぜってここなら必ず通るにきまってるからな、修道院へはほかに道はないもの。さあ、本当のことを言ってくれ、油虫にみたいに俺を踏みつぶしてくれよ・・・おい、どうした?」
「アリョーシャ」は「ドミートリイ」に頼まれていたのですね。
先ほどの別れ際に「ドミートリイ」が「アリョーシャ」に言った言葉は『兄がよろしくとのことでした。よろしく言ってました。よろしくと!くれぐれもよろしく!』とな。この騒動を話してやれよ」でした。
「油虫にみたいにふみつぶしてくれ」なんて言っていますが「ドミートリイ」は『よろしく』と伝えられた後の「カテリーナ」がどのような反応すると思っていたのでしょうか。
「いえ、べつに・・・あまりびっくりしたものだから。ああ、ドミートリイ兄さん!さっきお父さんの血を流したばかりなのに」
「アリョーシャ」は泣きだしました。
ずっと前から泣きたかったのですが、今ふいに胸の中で何かが張り裂けたかのようでした。
「もう、ちょっとでお父さんを殺すところだったのに・・・お父さんを呪ったりして・・・それなのに今・・・もう・・・冗談口をたたくなんて・・・金を出すか、生命をよこすか、だなんて!」
「それがどうしたんだ?不謹慎だってのかい?俺の立場にふさわしくないか?」
「いえ、そういうわけじゃ・・・僕はただ・・・」
本当にいろいろなことのあった一日ですが、その最後にこの兄を前にして「アリョーシャ」のやり切れない気持ちもわからないではありません。

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