「もっとこっちへいらして、アリョーシャ」
「リーズ」はますます赤くなりながら、つづけました。
「手を貸してくださらない、そう。あのね、あたしたいへんな告白をしなければならないの。昨日の手紙は冗談半分ではなく、まじめに書いたの・・・・」
こう言うと彼女は片手で目を覆いました。
これは思い切った告白ですが、「リーズ」は両手ではなくて片手で目を覆ったと言うのが新鮮ですね。
明らかにこの告白をするのが、とても恥ずかしいようでした。
ふいに彼女は「アリョーシャ」の手をつかむなり、一途な態度で三度キスしました。
「ああ、リーズ、すてきだ」
「アリョーシャ」は嬉しそうに叫びました。
「あなたがまじめな気持で書いたってことを、僕は心から信じていましたよ」
「信じていたですって、まあ、どうでしょう!」
ふいに彼女は彼の手をわきへ押しやりましたが、それでも放そうとはせず、ひどく赤くなって、小刻みに幸福そうな笑い声をたてながら言いました。
「あたしが手にキスすれば、《すてきだ》なんて言ったりして」
しかし彼女の非難は当っていませんでした。
「アリョーシャ」もやはりひどくうろたえていたのです。
「僕はいつもあなたに気に入られたいと思っているんだけど、どうすればいいのか、わからないんですよ、リーズ」
彼はやはり赤くなりながら、どうにかつぶやきました。
「アリョーシャ、あなたって冷淡だし、失礼だわ。そうでしょう。あたしを奥さんに選んだものだから、それで安心してしまったのね! あたしがまじめな気持で書いたと、もう信じきっているなんて、どうでしょう! そんなの失礼だわ、そうよ!」
「でも、僕が信じていたってのは、いけないことかしら?」
突然「アリョーシャ」は笑いだしました。
「ああ、アリョーシャ、反対よ、すごくすばらしいことだわ」
「リーズ」は幸福な思いをこめて、やさしく彼を見つめました。
「アリョーシャ」は彼女の手になおも自分の手をあずけたまま、立っていました。
ふいに彼は身をかがめ、彼女の唇にまともにキスしました。
「おまけになんてことを? どうなさったの?」
「リーズ」が叫びました。
「アリョーシャ」はすっかり度を失いました。
「もし、いけなことをしたのだったら、赦してください・・・・ことによると、僕はひどくばかなことを・・・・あなたが冷淡だなんて言うものだから、ついキスしたりして・・・・ただ、わかってます、ばかげた結果になってしまって・・・・」
「リーズ」は笑いだし、両手で顔を覆いました。
このときは、両手を顔を覆っていますね。
「それに、そんな服を着て!」
笑いの合間にこんな言葉が洩れましたが、いきなり彼女は笑いをやめ、ほとんどきびしいと言えるくらい真顔になりました。
「ねえ、アリョーシャ、あたしたちキスはまだお預けよ、だって、二人ともまだそんなこと、ろくにできないんだし、それにあたしたち、これからも永いこと待たなければならないんですもの」
唐突に官女は結論を出しました。
「それより、きかせてほしいわ、どうしてあなたはあたしみたいな、病気持ちのおばかさんをもらってくださるの、あなたみたいに聡明で、思索的で、よく気のつく人が? ああ、アリョーシャ、あたしこわいくらい幸せよ、だってあたしなんか全然あなたに値しない女ですもの!」
「値しますとも、リーズ。僕は近日中にすっかり修道院から出てしまうんです。世間に出たら、結婚しなければなりません、それは僕にもわかっているんです。あの方(三字の上に傍点)もそう命じられましたし。そうなれば、あなた以上の相手はいないし・・・・それにあなた以外に、だれが僕なんかを選んですれますか? このことは僕はもう十分考えぬいているんです。第一、あなたなら僕を子供のころから知っているし、第二に、あなたには僕の全然持ち合せないような才能がとてもたくさんありますしね。あなたの心は僕のよりも快活だし、何よりも、あなたは僕より純情ですよ、僕はもうずいぶんいろいろなものに触れてしまっているから・・・・ああ、あなたは知らないんですよ、僕だってカラマーゾフですからね! あなたがからかったり、ふざけたりしたからといって、たとえそれば僕に対するものであったにせよ、どうってことはありませんよ。それどころか、大いに笑ってください、僕はそれが嬉しいんですから・・・・でも、あなたは幼い少女のように笑ってらっしゃるけど、心の内では殉教者のような考え方をしてらっしゃるんだ・・・・」
ここまでで、二人がお互いを褒めあう言葉がたくさん出てきているのですが、作者はたぶん意図的だと思うのですが容姿のことは一切触れていませんね。
「殉教者のような? それ、どういうことかしら?」
「ええ、リーズ、さっきあなたは質問なさったでしょう、こんなふうに人の心を解剖しているのは、その不幸な人に対する軽蔑があるんじゃないかって。あの質問はまさに殉教者なんですよ・・・・だってそうでしょう、どうもうまく表現できないけれど、ああいう質問のうかぶ人は、自分も苦しむことを知っている人ですよ。あなたはその肘掛椅子に坐ったまま、今だっていろいろなことを考えぬいていたにちがいないんです」
私が引っかかった部分がここで作者がフォローしてくれています。
しかし、「アリョーシャ」も自分で思っているらしいように、なぜ「殉教者」かというのか私もよくわかりません。
「アリョーシャ、手を貸してちょうだい、どうして引っ込めたりなさるの」
「リーズ」は幸福のあまり気落ちしたような、弱々しくなった声で言いました。
「幸福のあまり気落ちしたような」という表現も引っかかってきますね。

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