2017年10月12日木曜日

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「すっかり白状せにゃなりませんですね」

「スメルジャコフ」は学者じみた冷静さでゆったりと言いました。

「実はわたしと大旦那さまの間に一つの秘密があるんでございます。ご存じのとおり(いえ、もしご存じでしたら、の話ですが)、大旦那さまはもうここ数日というもの、と申しましてもつまり夜や、時には晩方のことさえございますが、すぐに部屋に中から錠をかけて、閉じこもっておしまいになるんです。あなたさまは最近いつも早々と二階へ引き上げてしまうようになられましたし、昨日なぞは全然どこへもお出かけになりませんでしたから、大旦那さまがこのごろお寝みになる前に念入りにお部屋に錠をかけるようになったのを、あるいはご存じないかもしれませんが。そんなわけで、たといグリゴーリイ爺さんが伺っても、声で確かめたうえで戸をお開けになるほどでしてね。しかし、グリゴーリイが伺うことはありませんから、このごろではお部屋でお仕えいたすのはわたし一人なのでございますよ。これは、アグラフェーナさまに対する駆引きがはじまったあのときから、大旦那さまがご自分でそうお決めになったことでございますが、このごろではわたしも大旦那さまのご命令で、寝るときには引き下がって、離れで寝むことにしております。それというのも、真夜中まで寝ずの番をして、時々起きだしては庭を見まわって、アグラフェーナさまがおいでになるのをお待ちするためでして、なにしろ大旦那さまはもうここ数日間というもの、分別をなくされたように待ちこがれていらっしゃるものでございますからね。大旦那さまの読みはこうなんです。あの人はドミートリイさまを(大旦那さまはミーチカと呼んでらっしゃいますが)こわがっているから、夜遅くなってから裏道づたいに来るにちがいない。だからお前は真夜中か、それ以後まで見張っていろ。そして、もしあの女が来たら、戸口に駆けつけて、ドアか、あるいは庭から窓を最初は小さく二度、こんなふうにトン、トンと手でたたくんだ、それからすぐに今度はもう少し早くトン、トン、トンと三回たたくんだぞ。そうすれば、あの女が来たなとすぐにわかるから、そっとドアを開けてやる。もう一つ、非常の事態が起きた場合の合図も教えていただきました。最初は早くトン、トンと二度、それから少し間をおいてもう一度、ずっと強くたたくのです。そうすれば、何か突破的なことが起って、ぜひとも会わねばならないのだなとさとって、やはりドアを開けてくださいますから、わたしが中に入って報告するというわけです。これはすべて、アグラフェーナさまがご自分でおいでになれずに、使いに何かをことづけてよこす場合にそなえてですし、それ以外にも、ドミートリイさまが押しかけてくるかもしれませんので、そんな場合、近くまでいらしてることをお知らせするためなんです。なにしろ大旦那さまはひどくドミートリイさまをこわがってらっしゃいますから、アグラフェーナさまがすでにお見えになって、お二人してお部屋にこもっていられるような場合でも、その間にドミートリイさまがどこか近くに現われたら、わたしは必ず三度ノックして、すぐにそのことをお知らせしなければなりませんのです。ですから五回ノックする最初の合図は『アグラフェーナさまがお見えです』という意味ですし、もう一つの三度ノックするほうは『ぜひお目にかかりたい』という合図でございます。大旦那さまがみずから何度も範を示してわたしに教えこみ、説明してくださいましたので。この合図を知っているのは世界じゅうでわたしと大旦那さまだけですから、大旦那様は少しも怪しまずに、だれだとたずねさえしないで(声をだしてたずねたりするのを、とても恐れてらっしゃるんです)、すぐに戸を開けておしまいになります。ところが、ほかならぬこの合図が今やドミートリイさまにわかってしまったというわけでして」

つまり、「アグラフェーナ」の使いが来たとき、トントン(小)=『アグラフェーナさまがお見えです』・トントントン(早)=『ぜひお目にかかりたい』、非常事態は、トントン(早)・トントン・・・・(強)です。

「ドミートリイ」が現われたとき、トントントンですが、このノックの合図の説明が後で大変重要になってくるのですが、わかりづらいです。


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