2017年10月14日土曜日

562

「大旦那さまのご命令なしに、この合図のことをグリゴーリイに知らせるなんて、絶対にできませんですよ。それに、グリゴーリイがききつけて、通さないだろうということですが、爺さんは昨日のことが原因で、ちょうど今日から加減がわるくなったために、明日マルファが治療するつもりでいるんです。さっきそう話を取りきめていましたっけ。その治療というのがひどくおもしろいものでございましてね。マルファがそういう薬酒を知っていて、いつも備えているんですよ。何とかいう草を浸した強い酒ですが、あの婆さんはそんな秘伝を心得ているんです。グリゴーリイ爺さんが年に三、四度、まるで中風を起したみたいに腰をぬかすんですが、年に三、四度そういうことがあるとき、この秘伝の薬で治療をいたしますんで。そのときにはまずタオルをとって、この薬酒に浸し、マルファが爺さんの背中全体を三十分くらい、すっかり乾くまでこすりましてね。しまいには背中が真っ赤になって腫れあがりますよ。それから壜に残ってるのを、何やらお呪(まじな)いといっしょに爺さんに飲ませるんです。といっても全部じゃありませんがね。なぜって、めったにない機会ですから自分にも少し取り分けて、お相伴しますからね。そうすると、二人とも下戸の口ですから、飲むなりぶっ倒れて、そりゃ永いことぐっすり眠っちまうんです。目をさますと、グリゴーリイはそのあとはほとんどいつも元気になっていますけど、マルファのほうめ目をさますと、いつも頭痛に悩んでいるようですよ。というわけで、もし明日マルファがこの予定を実行するとなると、何か物音をききつけてドミートリイさまをお通ししないなんでことは、まずむずかしいでしょうね。二人とも眠っちまうでしょうから」

「スメルジャコフ」は「大旦那さまのご命令なしに、この合図のことをグリゴーリイに知らせるなんて、絶対にできませんですよ。」と言っていますが、「大旦那さまのご命令なしに」「ドミートリイ」と「イワン」に秘密を教えています。

一番の当事者である「ドミートリイ」に教えるのはもってのほかのことですが、これは、強要されたので仕方がなかったと言い切るつもりです。

そして「グリゴーリイ」には教えないのですね。

普通ならば自分の主人との個人的な秘密は、誰にも教えないか、仮に教えたとしても「グリゴーリイ」だと思います、「ドミートリイ」と「イワン」に教えるというのは考えられないことです。

このあたりに、「スメルジャコフ」の不気味な性格があらわれているように思います。

「そんなばかな話があるか! 何もかもがお誂えむきにいっぺんに重なるなんて。お前は癇癪で、あの二人は正体をなくしてるってわけか!」

「イワン」は叫びました。

「だが、お前自身、うまく重なるように仕組むつもりじゃないのか?」

ふいに彼は口走り、おそろしい剣幕で眉をひそめました。

ここで「イワン」は「仕組む」という言葉を使っていますが、この時点ではこれからどうなるかわからない物語の展開の上で何らかの伏線になっているのではないかと匂わせていますね。


「なんでわたしが仕組むなんて・・・・それに何のために仕組んだりする必要がございます。この場合すべてはドミートリイさまお一人に、あの方のお考え一つにかかっているというのに・・・・あの方が何かなさろうと思えば、やってのけるでしょうし、そんなおつもりがなければ、なにもわたしがわざわざ手引きして、お父さまのところへ押しこむことはないじゃございませんか」


0 件のコメント:

コメントを投稿