2017年10月15日日曜日

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「しかし、もしお前自身が言うように、グルーシェニカが全然来ないとしたら、なぜ兄貴は親父のところへ押しかける必要があるんだ、それもこっそりと」

怒りに青ざめながら、「イワン」はつづけました。

「お前自身そう言ったじゃないか。それに俺だってここに暮している間ずっと、親父が一人相撲をとっているだけで、あの売女は来るはずがないと確信していたしな。あの女が来ないなら、何のためにドミートリイが親父のところへ押し入らにゃならんのだ? 言ってみろ! お前の考えを知りたいもんだ」

「何しにいらっしゃるのか、ご自分だって知ってらっしゃるでしょうに、いまさらわたしの考えなんぞどうなさるんです? もっぱら憎しみからだけでも押しかけるでしょうし、あるいは早い話わたしが病気の場合なぞ、生来の疑り深さから、さてはあの女が俺に隠れてこっそりやって来たなと疑って、昨日みたいに、矢も盾もたまらずに家探しをしにいらっしゃるでしょうからね。それに、大旦那さまの手もとに大きな封筒が支度されていることは、ドミートリイさまも十分承知していらっしゃいますし。その封筒には三千ルーブル入っていて、封印を三つも押した上にリボンをかけて、大旦那さまご自身の手で『わが天使グルーシェニカへ。来る気になってくれたら』と書いてあるんです。その後三日ほどして、さらに『ひよこ(三字の上に傍点)ちゃんへ』と書き足されましたがね。このあたりが臭いところでして」

ここまで「スメルジャコフ」が詳しく知っているというのも驚きますが、「・・・・このあたりが臭いところでして」なんて、あいかわらず嫌な言い方をしますね。

作者は読者が知りたいことをよく考えてくれていて、「スメルジャコフ」にそれを語らせています。

「ばかばかしい!」

「イワン」はほとんど狂ったように叫びました。

「ドミートリイが金を盗みに来たりするもんか、おまけにそのついでに親父を殺すなんて。そりゃ昨日はグルーシェニカのことで、怒りに狂ったばか者よろしく、親父を殺しかねなかったけれど、強盗に来たりするもんか!」

「ドミートリイさまは今、たいそうお金が必要なんです。どんなことでもやりかねぬくらい、お金がほしいんですよ、若旦那さま。どんなに必要なのか、あなたにはおわかりにならないほどです」

「スメルジャコフ」はきわめて冷静に、おどろくほどはっきりと説きました。

「おまけに、ほかならぬその三千ルーブルをドミートリイさまはまるでご自分のお金みたいに考えてらして、ご自分でもわたしにははっきり言っておれれましたからね、『親父は俺にまだきっかり三千ルーブルの借りがあるんだ』って。そのうえ、よく考えてごらんなさいまし、若旦那さま。ある種のまぎれもない真実がございますからね。これはほとんど確実なことなので、申しあげとかにゃなりませんが、アグラフェーナさま自身がその気にさえなったら、必ず旦那さまを、つまりフョードルさまを、ご自分と結婚するように仕向けてしまいますよ。かりにその気になればの話ですが、ひょっとすると、そんな気を起すかもしれませんしね。たしかにわたしは、あの方は来やしないと申しましたけれど、女のほうじゃ、ことによるともっと高望みを、つまり、いきなり奥さまに納まろうという気を起すかもしれませんよ。現にわたし自身も知っていることですが、例のサムソーノフという商人があの方に、そうなればいたってわるくない話だと正直におっしゃって、笑っていたそうですからね。それにご当人も頭は決してわるくございませんし。あの方は、現在のドミートリイさまみたいな一文なしとは、結婚なさりゃしませんよ。というわけで、今度はそれを考慮に入れて、お考えになってごらんなさいまし、若旦那さま。そうなりゃ、ドミートリイさまにも、若旦那さまや弟のアレクセイさまにさえも、お父上の死後まるきり何一つ、たったの一ルーブルも残りゃしないんですからね。なぜって、アグラフェーナさまが結婚なさるのは、何もかも自分の名義に書きかえて、ありったけの財産をご自分のものにするためなんですから。ところが今、まだ何一つそんなことが起らぬうちに、お父さまがお亡くなりになれば、ご兄弟のだれもが確実に四万ルーブルずつ、すぐさま手に入るんです。まだ遺言状ができていませんから、あんなに憎まれているドミートリイさまでさえもね・・・・こんあことはみな、ドミートリイさまは先刻ご承知になってらっしゃいますよ・・・・」

「スメルジャコフ」は「フョードル」の財産まで承知しているのですね。

そして、お金をめぐって「ドミートリイ」と「アグラフェーナ」が動く可能性があると言っています。

まず三千ルーブル=三百万円について「ドミートリイ」が「どんなことでもやりかねぬくらい、お金がほしいんですよ」という金額なのですが、これは、「カテリーナ」が「ドミートリイ」に頼んでモスクワの「アガーフィヤ・イワーノヴナ」に送ろうとした金額が三千ルーブルなのです。

(336)にあるように「ドミートリイ」はその三千ルーブルを「アガーフィヤ・イワーノヴナ」に送らず、「グルーシェニカ」とモークロエへ遠征して散財しました。

だから、「カテリーナ」に返すためにその三千ルーブルを狙っていると「スメルジャコフ」は言っているのです。

そして(430)では、「ドミートリイ」は「アリョーシャ」に「・・・・実はな、五日ほど前に親父は三千ルーブルとりわけて、百ルーブル札にくずしたうえ、大きな封筒に入れて、封印を五つも押し、しかもその上から赤い細引きで十字に縛ったもんだ。どうだい、実にくわしく知っているだろう?封筒の上には、『わが天使グルーシェニカへ。来る気になったら』と書いてある。・・・・」と語っています。


封印の数が「スメルジャコフ」は三つと言っているのですが「ドミートリイ」は五つと言っています、これはどちらの勘違いでしょうが、三日後に書き加えられた『ひよこ(三字の上に傍点)ちゃんへ』と言うのは「ドミートリイ」もまだ知らないようですが、そのときに封印がふたつ増えたということも考えられます。


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