それはともかく、いずれにせよ、測り知れぬ自尊心が、それも傷ついた自尊心がちらちらと顔をのぞかせるようになってきました。
この「ちらちらと顔をのぞかせる」「傷ついた自尊心」とは何でしょうか。
一番の理由は「カテリーナ」との関係におけるものだと思いますが、ここではこれから述べられる「スメルジャコフ」とのことでしょうか。
「イワン」にはこれがひどく気に入りませんでした。
嫌悪が生じたのも、これがきっかけでした。
その後、家にいざこざが起り、「グルーシェニカ」が現われ、兄「ドミートリイ」との一件がはじまって、いろいろな心配事が生じました-二人はそれについても語り合いましたが、その話をする際いつも「スメルジャコフ」はひどく興奮するとはいえ、当の彼がいったい何を望んでいるのかは、やはりどうしても突きとめられませんでした。
立場上「スメルジャコフ」は自分の思いを伝えることができないと思いますが、「イワン」の側からみれば、自分はそんなことに関わらずこの話題については対等に話しているつもりになっているので物足りなく思うのでしょう。
むしろときおり思わず口に出る、いつも同じようにはっきりせぬ、いくつかの願望の非論理性や混乱におどろかされるほどでした。
「スメルジャコフ」は何でも根掘り葉掘りたずね、明らかに十分考えぬいた何やら婉曲な質問を浴びせるのですが、何のためにかは説明せず、しかも自分の質問がいちばん熱を帯びる瞬間にふいに黙りこんでしまったり、まるきり別の話に移ったりするのでした。
だが、最後に「イワン」を決定的に怒らせ、これほどの嫌悪を心に植えつけたいちばん主要なものは、日を追うにつれてますます強く「スメルジャコフ」が示すようになった、一種独特ないやらしい狎れなれしさでした。
ここで、「これほどの嫌悪を心に植えつけたいちばん主要なもの」という言葉がありますので、先ほどの「ちらちらと顔をのぞかせる」「傷ついた自尊心」というのは、「スメルジャコフ」との関係におけるものだと分かりましたね。
無礼な態度をあえてとるわけではなく、むしろ反対にいつもきわめて丁寧な口をきくのですが、なぜかわからぬうちに「スメルジャコフ」はどうやら何らかの点で「イワン」と連帯しているような気になったらしい按配で、話をするときはいつも、まるで二人の間には、かつて双方から言いだして二人だけは知っているが、まわりにうごめく他の俗人どもには理解も及ばぬ、何か秘密の取りきめでも存するかのような口調になるのでした。
たしかに、こういうような相手の人間性を疑わせるような関係性はどこにでも普通に存在すると思いますが、そのようにしようとする心理はどんなものなのでしょうか。
それは、閉鎖的な関係のみに起こりうる感情で、人数的に二人の場合のみ成り立ちうるもので三人になればちがったものになるように思います。
とにかく、無言の密約めいたもので相手と自分にだけ通じる内心の幻想を共有することによって、つまりそれは排外的になることを意味するのですが、そうすることによって関係性を維持しようとすることです。
それだけではなく、もっと打算的で卑屈な感情など、そのへんの心理はいろいろあるでしょうが、ふたりが同じ気持ならともかく、そうでなければ嫌ですね。
それでも「イワン」は、ますますつのってゆく嫌悪のこうした本当の原因が永いことわからず、ごく最近になってやっと問題の所在に思い当たったのです。
今も彼はいまわしい苛立たしい感じをおぼえて、無言のまま、「スメルジャコフ」を見ぬようにして木戸をくぐろうとしかけたのですが、「スメルジャコフ」がベンチから立ちあがり、その動作一つを見ただけて「イワン」はもう一瞬のうちに、相手が何か特に話したがっているのを察しました。

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