2018年1月12日金曜日

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「アリョーシャ」はやっと相手を見ましたが、なにか放心した様子で、いまだに相手の言葉がろくに理解できぬみたいでした。

「ほんとに、君のあの老人が腐臭を立てたことだけが原因なのかい? あの人が奇蹟をしでかすなんて、本気で信じていたのか?」

またしても心底からのおどろきに変りながら、「ラキーチン」は叫びました。

「信じていたとも。今も信じているし、これからだって信じつづけるだろうよ。まだ何か言うことがあるのかい?」

「アリョーシャ」は苛立たしげに叫びました。

「いや、べつにないさ。呆れたもんだ、この節じゃ十三歳の中学生だってそんなことは信じちゃいないぜ。しかし、呆れたよ・・・・それで君は今、自分の神に腹を立てて、謀叛を起したんだな。これほどの忠勤に対して何のお沙汰もないとは。まったく君って男は!」

「アリョーシャ」はなぜか目を細めて、永いこと「ラキーチン」を見つめました。

その目に突然何かが光りました・・・・が、「ラキーチン」に対する怒りではありませんでした。

「僕は自分の神に謀叛を起したわけじゃない、ただ《神の世界を認めない》だけさ」

とうとう「アリョーシャ」は《神の世界を認めない》とまで言ってしまいました、「奇蹟」は信じると言っているのですが、《神の世界を認めない》とはどういう意味なのでしょうか。

ふいに「アリョーシャ」はゆがんだ笑いをうかべました。

「神の世界を認めないとは、なんのことだい?」

「ラキーチン」はこの返事にちょっと首をひねりました。

「なんて他愛のないことを?」

「アリョーシャ」は答えませんでした。

「下らん話はもうたくさんだ、本題に入ろう。君は今日、食事をしたのかい?」

「おぼえてないけど・・・・だぶん食べたよ」

「その顔から見て、少し元気をつけなけりゃいかんな。君を見てると胸が痛むよ。だってゆうべも寝ていないんだろう。ちらときいたけど、あっちで会議があったそうじゃないか。そのあと、ずっとこの騒ぎだもの。せいぜい聖餅の一片くらいつまんだ程度にちがいないよ。僕はポケットにソーセージを持ってるんだがね。さっきここへ向かうとき、万一の用意に町から持ってきたんだ。ただ、ソーセージじゃ君はだめだな・・・・」

「ソーセージでもいいさ・・・・」

修道僧はソーセージを食べてはいけないことになっているのでしょうか、知りませんでした。

「へえ! こいつはおどろいた! つまり、完全に謀叛を起したってわけだ、バリケード闘争か! まあ、君、べつにこういう問題を無視することはないさ。僕のところへ行こうや・・・・僕自身は今ウォトカを一杯やりたいところだがね、ひどく疲れたよ。君はたぶんウォトカまでは踏み切れまいな・・・・それとも飲むかい?」

「ウォトカももらうよ」

「ひょう! こいつはすごい!」

「ラキーチン」は奇妙な目をしました。

「とにかく、ウォトカといい、ソーセージといい、大胆な結構なことだ、見のがすわけにはいかんね、さ、行こう!」


一体、「アリョーシャ」は崩壊してしまったのでしょうか、いや、そんなはずはありません。


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