「わが主は勝てり! キリストは入日に勝ちたまえり!」
太陽に両手をさしのべて、もの狂おしく叫ぶと、地べたに顔を伏せたまま、涙に全身をふるわせ、地面に両手をひろげながら、幼な子のように声を限りに泣きだしました。
ちょっとやりすぎですね。
これを見てみなが彼のそばに駆けより、感嘆の叫びや、もらい泣きの声がひびき渡りました・・・・何かの狂気がみなをとらえました。
「これこそ聖者だ! これこそ行い正しき人だ!」
もはや恐れげもなく、賞賛の声がひびきました。
「これこそ長老の位につくべき人なのだ」
ほかの連中がすでに敵意もあらわに言い添えました。
「この人は長老の位になどつくものか・・・・自分から拒否なさるとも・・・・呪わしい新制度に仕えたりするはずがない・・・・あの連中の愚かさを真似たりするもんか」
すぐに別の声が合の手を入れました。
この騒ぎがしまいにどんなことになりかねなかったか、想像するのもむずかしいが、ちょうどこのとき、勤行を告げる鐘が鳴りました。
語り手がみずから「この騒ぎがしまいにどんなことになりかねなかったか、想像するのもむずかしい」と言っているのは「パイーシイ神父」対「フェラポント神父」の決着でしょうが、このゴタゴタした状況はそのままの状態で、それらの騒動を打ち消すように鐘がなり時間とともに前に進むのです。
だれもがにわかに十字を切りはじめました。
「フェラポント神父」も起き上がり、十字の印で身を守りながら、あともふりかえらずに自分の庵室に向いました。
相変らず叫びつづけてはいましたが、もはやまるきりとりとめのない言葉をでした。
ごく少数の一部の連中があとにつづきかけましたが、大部分は勤行に急いで、散っていきました。
「パイーシイ神父」は朗読を「イォシフ神父」に委ねて、下におりました。
狂信者たちの気違いじみた叫びに動揺するはずはなかったが、ふいに心が沈み、何かを特に思い悩みはじめました。
彼もそれを感じました。
彼は立ちどまり、だしぬけに自分の心にたずねました。
『気落ちするほどのこの憂鬱は、いったいなぜだろう?』
そしてすぐに、この突然の憂鬱が明らかに、ごく些細な特殊の理由から生れたことを、おどろきとともにさとりました。
ほかでもない、今しがた庵室の入口にひしめいていた群集の中に、彼は動揺する他の人々にまじって「アリョーシャ」の姿を認め、それを見たとたん、そのときすでに自分の心にある種の痛みともいうべきものを感じたことを思いだしたのです。
『それにしても、はたしてあの青年が今のわたしの心にそれほど大きな意味を持っているのだろうか?』
ふいに彼はおどろきをおぼえて自分にたずねてみました。
ちょうどこのとき、「アリョーシャ」がどこかに急ぐ様子で、しかし会堂とは違う方角をさして、わきを通りかかりました。
眼差しが出会いました。
「アリョーシャ」は急いで目をそらして地におとしました。
青年のその様子を見ただけで、まはや「パイーシイ神父」は、今この瞬間に青年の心の中でいちじるしい変化が起りつつあることを察しました。
「今この瞬間」の「アリョーシャ」の心の変化とは?
彼はこの騒動を見てどう思い、どう考えを変えたのでしょう。

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