2018年3月13日火曜日

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窓のすぐ下に、こんもり茂った、大きな背の高いニワトコとスイカズラの茂みがいくつかあるのを、彼はおぼえていました。

「ニワトコ」は「スイカズラ科ニワトコ属の落葉低木または小高木。ニワトコ属は、新しいAPG植物分類体系ではレンプクソウ科に移されている」、「スイカズラ」は「スイカズラ科スイカズラ属の常緑つる性木本。別名、ニンドウ(忍冬)。冬場を耐え忍ぶ事からこの名がついた」とのこと(下の絵は左からそれぞれ「ニワトコ」と「スイカズラ」)

正面左手にある、屋敷から庭への戸口はぴったり閉っていました。

彼は通りしなにそれをことさら念入りに見きわめておきました。

やっと、茂みにたどりつき、そのかげに身をひそめました。

息ができませんでした。

『今度は少し待たなければ』

彼は思いました。

『もし俺の足音をききつけて、耳をすましているとしたら、疑念を解かなけりゃいけないからな・・・・ただ、咳やくしゃみをしないようにすることだ・・・・』

二分ほど待っていましたが、胸の動悸が恐ろしいほどで、時々はほとんど息がつまりそうになりました。

『だめだ、動悸がおさまりそうもない』

彼は思いました。

『これ以上待てないぞ』

彼は茂みのかげの暗がりに立っていました。

茂みの前半分は窓からの光に照らされていました。

『スイカズラの実、なんてきれいな赤だ!』

なぜかわかりませんが、彼はささやきました。

足音をたてずに一歩ずつ踏みしめながら、そっと窓に忍びよって、爪立ちしてみました。

「フョードル」の寝室全体が、手にとるように目の前にうかびあがりました。

「フョードル」のいわゆる《支那の》赤い屏風で横に二つに仕切られた、小さな部屋でした。

『支那の屏風か』

「ミーチャ」の頭にこんな思いがちらとうかびました。

『あの屏風のかげにグルーシェニカがいるんだ』

彼は「フョードル」を観察しはじめました。

「フョードル」は、「ミーチャ」がついぞ見たことのない、縞柄の新しい絹のガウンに、房飾りのついた絹の細帯をしめていました。

ガウンの襟の下から、こざっぱりとしたハイカラなシャツがのぞいていました。

金のカフスをつけた、薄地のオランダ製のシャツでした。

「フョードル」の頭には、昨日「アリョーシャ」の見た、赤い包帯が巻かれていました。

『めかしこみやがって』

「ミーチャ」は思いました。

「フョードル」は物思いにふけっている様子で窓のそばにたたずみ、ふいに頭をあげて、ほんのちょっと耳をすましましたが、何もきこえなかったため、テーブルのところに戻り、ガラス壜からグラスに半分ほどコニャックをついで、飲み干しました。

そのあと胸いっぱいに息を吐き、またしばらくたたずんでから、壁にはめこまれた鏡のところへ放心したように歩みより、額から赤い包帯を軽く持ち上げて、まだ癒らぬ痣や傷をしげしげと眺めにかかりました。

『一人だな』

「ミーチャ」は思いました。

『どう見ても、親父一人だ』

「フョードル」は鏡から離れると、突然、窓の方をふりかえって、外を眺めました。


「ミーチャ」はとたんに暗がりにとびすさりました。


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