五 突然の決心
彼女は祖母と台所にいました。
二人とも寝支度にかかっていたところでした。
「ナザール」を当てにして、二人はまたしても内側から錠をおろしておきませんでした。
門番頭の「ナザール・イワーノウィチ」のことですね。
「ミーチャ」は駆けこむなり、「フェーニャ」にとびかかり、咽喉をぎゅっとつかみました。
「今すぐ言え、彼女はどこにいる、モークロエで今だれといっしょなんだ?」
狂ったように彼はわめきたてました。
女は二人とも悲鳴をあげました。
「はい、申しあげます、ドミートリイさま、何もかも今申しあげます、何一つ隠しだていたしませんから」
死ぬほど怯えた「フェーニャ」は早口に叫びました。
「奥さまはモークロエの将校さんのところへいらしたんです」
「将校ってだれだ?」
「ミーチャ」はどなりました。
「ドミートリイ」はこの事態を全く予想していなかったのですが、まだ気づかないのでしょうか。
「以前のあの将校さんです。昔の恋人だったあの方です。五年前ここにいらして、奥さまを棄てて、行ってしまったあの人で・・・・」
「フェーニャ」はやはり早口にしゃべりつづけました。
「ミーチャ」は彼女の咽喉をしめつけていた手をはなしました。
彼は死人のように青ざめて声もなく彼女の前に突っ立っていましたが、その目を見れば、すべてをいっぺんに理解したことは明らかでした。
ここに至ってはじめて「ドミートリイ」はわかったのですね。
言葉半ばですべてを最後の一点にいたるまで理解し、何もかも察しとったのです。
もちろん、この瞬間に彼が理解したかどうかを観察するなど、哀れな「フェーニャ」の役柄ではありませんでした。
彼がとびこんできたとき、彼女は長持に腰かけていたのですが、今もそのままで、全身をふるわせ、まるで身を守ろうとするかのように両手を前にひろげ、その姿勢のまま息をひそめていました。
恐怖に瞳孔のひろがった、怯えた目で、彼女は食い入るように相手を見つめていました。
おまけに相手は両手とも血まみれでした。
これは怖いですね、(710)で「フェーニャ」は嘘をつきましたし、興奮して銅の杵を持ち去った「ドミートリイ」に対し「まあ、たいへん、人殺しをする気だわ!」と言っていたくらいですので。
走ってくるみちみち、きっと顔の汗をぬぐうために両手で額にさわったのでしょう、額にも右頬にもこすりつけた血の赤いしみが残っていました。
「フェーニャ」は今にもヒステリーを起しかねぬ様子でしたし、料理女の老婆もとびすさったまま、ほとんど意識を失って、狂人のように見すえていました。
「ドミートリイ」はしばらく棒立ちになっていましたが、突然「フェーニャ」のわきの椅子に機械的に座りこみました。

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