「実はあの人が嘘ばかりつくもんで、僕らはずっと笑いどおしなんですよ」
さながら彼の考えを察しとったかのように、「マクシーモフ」を指さしながら、だしぬけに「カルガーノフ」が言いだしました。
「ミーチャ」はすばやく「カルガーノフ」を見つめ、それからすぐ「マクシーモフ」に目を移しました。
「嘘をね?」
彼はとたんに何か嬉しくなって、いつもの短い、ぶっきらぼうな笑い声を張りあげました。
「は、は、は!」
この「ドミートリイ」の笑い方は彼の特徴としてたくさん出てきますが、いまいち実感がわきません。
「ええ。だってね、この人は、二十年代にはわが国の騎兵はみんなポーランド女性と結婚したみたいなことを言い張るんですよ。しかし、ひどくばかげた話ですよね、そうでしょう?」
「ポーランド人とね?」
また、「ミーチャ」はおうむ返しに言い、もはやすっかり有卦(うけ)に入っていました。
「有卦(うけ)に入(い)る」とは「ありそうもない幸運が続くの意で、すべての物事がうまくいくこと。「有卦」とは、陰陽道で幸運が七年間続くという年回りのこと。その後五年間続く凶年は「無掛」という。」とのことですが、今はあまり使わない言葉ですね。
「カルガーノフ」は「ミーチャ」と「グルーシェニカ」の間柄をとてもよく理解していたし、ポーランド人のことも察してはいましたが、そんなことはみな、さほど関心をひきませんでした。
ことによると、まるきり関心がなかったのかもしれません。
いちばん彼の興味をひいたのは、「マクシーモフ」でした。
彼は「マクシーモフ」といっしょに偶然ここへやってきて、ポーランド人たちともこの宿屋で生れてはじめて出会ったのです。
「グルーシェニカ」は以前から知っていましたし、一度だれかに連れられて彼女の家に行ったことさえありました。
そのときは彼女に気に入られませんでした。
これは、いつどういう状況であったかは書かれていませんね。
しかし、ここでは彼女はたいそうやさしく見つめてくれ、「ミーチャ」が来るまでは頭を撫でてさえくれたのですが、彼のほうはさっぱり感じない顔つきでした。
彼はせいぜい二十歳くらいの青年で、しゃれた服装をし、実にかわいい色白の顔に、美しい豊かな栗色の髪をしていました。
しかし、この青年はときおりまるきり子供のような口のきき方や様子をし、自分でもそれを自覚しながら、いっこう平気でいるようなところがあったにもかかわらず、その色白の顔にかがやく美しい、明るい空色の目は、聡明な、ときには年齢に似合わぬほど深遠な表情を宿すことがありました。
概して彼は、いつも愛想がよいとはいえ、ひどくユニークで、気まぐれでさえありました。
相手を見つめて、話をきいてはいるのですが、当人は何か自分のことを執拗に空想しているといった感じなのです。
時によると、生気がなく、ものうげになるかと思えば、だしぬけに張り切りだすこともあり、それも往々にして一見ごく下らない原因からのことがあるのでした。
「カルガーノフ」については、(120)でかなり詳しく説明されています、ここでも再び彼の特徴が書かれています、作者の身近にそういう人物がいて描いて見たかったのかもしれません。
「考えてもくださいよ、僕はもう四日もこの人を連れて歩いてるんですからね」
いくらかものうげに言葉をひきのばし、だが少しも嫌味な感じはなく、ごく自然な口調で彼はつづけました。
「おぼえてらっしゃるでしょう、あの日、あなたの弟さんに馬車から突き落されて、この人がふっとんだとき以来ずっとなんです。あのとき、僕はこの人にとても興味をもったので、田舎へ連れて行ったんですが、今やのべつ嘘ばかりついているもんだから、いっしょにいるのが恥ずかしくなりましてね。送り返すところなんです・・・・」
「イワン」が馬車に乗り込もうとする「マクシーモフ」を突き落とした(278)で描写されている光景ですね、「カルガーノフ」はこの時から「マクシーモフ」を誘って道中を共にしているとのことですが、どういう行きがかりなのか詳しくわかりませんね。

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