「あなたポーランド女性見たことないから、ありもせぬこと言うですね」
パイプをくわえたポーランド人が「マクシーモフ」に言いました。
パイプをくわえたポーランド人はロシア語をかなり上手に話しました。
少なくとも予想していたより、ずっと上手でした。
しかし、ロシア語の言葉も、彼が使うと、ポーランド語風のおかしな発音になるのでした。
「とにかく、かく言うわたしもポーランド女性と結婚したことがあるんですからね」
「マクシーモフ」がやり返して卑しい笑い声をたてました。
「あれ、それじゃあなたは騎兵隊に勤務したことがあるんですか? だって、あなたの言ってるのは騎兵隊のことでしょうに。だったら、あなたは騎兵だったんですか?」
すぐに「カルガーノフ」が口をはさみました。
「そう、もちろんですよ、この人が騎兵なもんですか! は、は!」
まるで一人ひとりからどんなおもしろい話をきけるかと期待するみたいに、熱心に話をきき、だれかが口をきくたびに物問いたげな視線をすばやくその方に移していた「ミーチャ」が叫びました。
「いえ、それがですね」
「マクシーモフ」は彼の方に顔を向けました。
「わたしが申すのは、つまり、あちらの女性はですな・・・・器量よしで・・・・ロシアの槍騎兵(そうきへい)とマズルカを一曲踊り終ると、ですよ・・・・マズルカを踊り終ると、すぐに子猫みたいにぴょんと膝にのってくるんですよ・・・・色白の子猫ちゃんがね・・・・それを両親も見ていながら、黙認しているんです・・・・おおっぴらなんですな・・・・だもんで、槍騎兵は翌日さっそく出かけて行って、結婚を申し込む・・・・と、こういうわけなんです・・・・結婚を申し込むという寸法でしてね、ひ、ひ!」
「マズルカ」とは「4分の3拍子を基本とする特徴的なリズムを持つ、ポロネーズと並んで有名なポーランドの民族舞踊およびその形式(舞曲)。第1拍は付点リズムが多く、第2もしくは第3拍にアクセントが置かれる。マズルカの他に似たものとして、より速いテンポの「オベレク(Oberek)」、ゆっくりとしたテンポの「クヤヴィヤック(Kujawiak)」など、地方により多様な名称のものがある。19世紀、ポーランド貴族(シュラフタ)のあいだで流行した。ショパンは諸地方の舞曲の要素を統合し、マズルカを芸術作品として昇華させた。同世紀にはマズルカのリズムを持ったポルカ「ポルカ・マズルカ」も誕生した。」とのこと。
語り終えて「マクシーモフ」は卑しい笑いを洩らしました。
彼は自分が騎兵隊であったかどうか答えていませんね、「カルガーノフ」が彼のことを「嘘ばかりつく」と言っているように嘘かもしれませんね。
「あんたはろくでなしだ!」
突然、椅子に坐っていた大男が唸るように言って、足を組みかえました。
「ミーチャ」は、厚い底革が泥だらけに汚れている、ぴかぴかに磨きあげた巨大な革長靴だけが目に入りました。
それに概して、ポーランド人たちは二人とも、かなり垢じみた身なりをしていました。
「まあ、ろくでなしだなんて! どうしてそんな悪態をつくの?」
ふいに「グルーシェニカ」が腹を立てました。
「パーニ・アグリッピーナ(訳注 アグラフェーナと同じ。ただし、アグラフェーナが庶民的な形である)、この人ポーランドの国で農奴の娘見たです、貴族のお嬢さん知らない」
「よくもそんなことが言えたもんだ!」
椅子に坐っている大男が、軽蔑するように言い棄てました。
「また、そんなことを! 話をさせてあげればいいでしょ! 人が話してるのに、どうして邪魔するの? この人たちと話していると楽しいわ」
「グルーシェニカ」が食ってかかりました。

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