2018年4月16日月曜日

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「わたし邪魔しません」

かつらの男が長い視線を「グルーシェニカ」に注いで意味ありげに言い、もったいぶって口をつむぐと、またパイプを吸いはじめました。

「いえ、そうじゃない、違いますよ、今こちらの方が言われたとおりです」

この「マクシーモフ」の発言の中で「今こちらの方」とは「椅子に坐っている大男」のことでしょうか。

まるで何やら大問題でも論じているみたいに、また「カルガーノフ」がむきになって言いました。

「だって、この人はポーランドに行ったこともないくせにどうしてポーランドの話なんぞするんです? あなたが結婚したのは、ポーランドでじゃないでしょうに。違うでしょう?」

「はいスモレンスク県ですよ。ただ、その前にさる槍騎兵がわたしの家内を、つまり、未来の妻を、母親と、伯母さんと、もう一人、成人した息子のある親戚の女といっしょに連れだしたんです。これは本当にポーランドからでしてな、まぎれもなく・・・・そしてわたしに譲ってくれましたので。その男は騎兵中尉で、実にいい青年でした。最初は当人がいっしょになるつもりだったんですが、結婚しなかったんです。というのも、相手の娘が跛(びっこ)だとわかったものですから・・・・」

「スモレンスク」はロシア最古の町のひとつとして実在する町です、ロシア、ポーランド、リトアニアの間にあって昔から何度も戦闘の混乱の中に陥った町のようです。

「それじゃ、あなたは跛の娘と結婚したんですか?」

「カルガーノフ」が叫びました。

「はい、跛とです。なにしろそのときは二人ともわたしを少し欺して、隠していたものですからね。わたしはてっきり、その娘がぴょんぴょん跳ねているんだと思ってましたよ・・・・いつも跳ねてるもんで、わたしは、楽しいからだろうと思っていたんですが・・・・」

「あなたと結婚できるのが嬉しくてね?」

「カルガーノフ」がなにやら子供のように甲高い声で叫びました。

「はい、嬉しさのあまりだと思っておりましたよ。ところが、蓋を開けてみりゃ、まるきり別の原因だったというわけで。やがて、わたしらが結婚すると、式のすんだその晩、彼女はわたしに打ち明けて、たいそうしおらしく詫びたものです。なんでも、子供のころ水溜りをとびこそうとして、足を折ったとか言ってましたな、ひ、ひ!」

「カルガーノフ」が子供のような笑いを爆発させて、ほとんどソファの上に倒れるばかりでした。

「グルーシェニカ」も笑いくずれました。

「ミーチャ」は幸福の絶頂にありました。

「そう、そうなんです、今度の話はもう本当ですよ、今のは嘘じゃないんです!」

「ミーチャ」をかえりみて、「カルガーノフ」が叫びました。

「ご存じですか、この人は二度結婚してるんです。今のは最初の奥さんの話ですが、二度目の奥さんは逃げてしまって、今でも生きているんです、ご存じですか?」

「ほんとに?」

極度のおどろきを顔にあらわして、「ミーチャ」はすばやく「マクシーモフ」をふりかえりました。

「はい、逃げてしまったんです。わたしはそんな不愉快な目に会っておりますので」

「マクシーモフ」が遠慮がちに認めました。


「さるフランス人のムッシュウといっしょにです。何よりもけしからんのは、わたしの持ち村をそっくり、あらかじめ自分の名義に書き換えてしまったことでして。あんたは教養あるんだから、自分の食い扶持くらい見つけられるわよね、なんて言いましてな。そうしておいて、ずらかったというわけでして。いつぞや、さる立派な僧正さまがわたしにこうおっしゃったことがあるんです。お前さんの細君は、一人は跛だったし、もう一人はあんまり逃げ足が早すぎたなって。ひ、ひ!」


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