「じゃお前は、お前は赦してくれるかい、アンドレイ?」
「あっしが赦すも赦さねえも。旦那はあっしに何もなさらないじゃありませんか」
「いや、みんなに代ってさ。みんなに代って、お前一人が今、たった今ここで、この道中でみなに代って俺を赦してくれるかい? 言ってみろよ、純朴な男だもの!」
「ああ、旦那! 旦那をお運びするのが、こわくなってきましたよ。なんだか妙なお話ばかりで・・・・」
「アンドレイ」が赦すかどうか聞きたかったですが。
しかし、「ミーチャ」はろくにきいていませんでした。
彼は熱狂的に祈りを唱え、ひとり異様につぶやいていました。
「主よ、無法の限りをつくしてきたわたしを、そのまま受け入れてください。ですが、わたしを裁かないでください。あなたのお裁きなしに通してください・・・・わたしはみずから自分を裁いたのですから、どうか裁かないでください! 汚らわしいわたしですが、それでもあなたを愛しているのです。たとえ地獄へおとされても、地獄であなたを愛し、永久に愛しつづけると地獄から叫ぶことでしょう・・・・でも、わたしにも愛を完うさせてください・・・・今この地上で、あなたの熱い光がさしのぼるまでのせいぜい五時間かそこらの間、愛を完うさせてください・・・・わたしはわが心の女王を愛しているのです。愛していますし、愛さずにはいられないのです。わたしがどんな人間か、あなたはすっかりお見通しのはずです。これからわたしは駆けつけて、彼女の前にひれ伏します。そして言ってやるつもりです、お前が俺のそばをすりぬけて行ったのは正しいのだ・・・・さようなら、お前の犠牲のことなぞ忘れて、もう二度と心配しないでいいよ、と!」
冷静に考えると、こんなことはしなくていいと思うのですが、当事者はそうは言ってられないですね、神への敬虔な感情や正直で素朴な感情や醜く意地汚い感情などあらゆる感情がごちゃまぜになって押しとどめることができない状態でしょう、これは理性を超えていることですから、そういう状況に置かれた人間にしかわからないものです。
「モークロエですぜ!」
鞭で前方をさし示しながら、「アンドレイ」が叫びました。
青白い夜の闇を通して、突然、広大な空間にひろがる家々のがっちりした集団が、くろぐろと望まれました。
モークロエ村は人口二千ほどでしたが、この時刻にはすかり眠りに沈み、わずかにそこかしこで闇の中からまばらな燈火がまたたいているだけでした。
「とばせ、とばすんだ、アンドレイ、俺が来たんだぞ!」
まるで熱病にかかったように「ミーチャ」が叫びました。
「まだ眠ってませんね!」
村のすぐ入口に立っているプラストゥーノフの宿屋を鞭でさしながら、「アンドレイ」がまた言いました。
通りに面した六つの窓がみな、明るくかがやいていました。
「眠ってないな!」
「ミーチャ」が嬉しそうに相槌を打ちました。
「鈴を鳴らせ、アンドレイ、ギャロップでとばすんだ。鈴を鳴らせ、鳴物入りでぶっとばしてやれ。だれが来たか、みんなにわかるようにな! 俺が来たんだぞ! みずから乗りこんできたんだ!」
「ギャロップ」とは、「馬術における全速力の指示 - 襲歩(しゅうほ)とも」とのこと。
「ミーチャ」は狂ったように叫びました。

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