2018年5月11日金曜日

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第九編 予審

一 官吏ぺルホーチンの出世の糸口

この見出しの「官吏ぺルホーチンの出世の糸口」というのは実感が湧いてきません、今までの彼のイメージは少し判断力に欠けるものの誠実で思いやりがあり、いいやつだとふうに理解していましたので出世という言葉は似合わないと思っていました。

「ペルホーチン」が女商人「モロゾワ」の家の閉めきった頑丈な戸を力まかせにたたいているのを、われわれはそのままにしてきたのですが、その彼は結局、当然のことながら、ついに門番をたたき起こしました。

読んでいると、ずっと昔の話のように思えてくるのですが、ここでいう「われわれ」とはもちろん読者を想定しています、「ペルホーチン」は「ドミートリイ」とふたりで「プロトニコフの店」で飲んでからモークロエに行く彼を見送りました、そして「行きつけの飲屋」つまり「都」へ球を撞きに行き、(731)で書かれているように、彼は店で玉突きの客と話をしているうちに「ドミートリイ」のことが気がかりになります、ですから「三回目のゲームを終え、予定していた夜食もとらずに飲屋を出て「フェーニャ」に詳しく話を聞くため「グルーシェニカ」が一棟借りていたモロゾワの屋敷に行きました、ノックをしましたが誰も応対するものがいないので『こうなったらやめないぞ、起きるまでたたいてやる、たたき起してやるんだ!』というところだったのです。

二時間前にあれほど震えあがり、いまだに興奮と《心配》とで寝床に入る気になれずにいた「フェーニャ」は、こんな気違いじみた勢いで門をたたく音をきいて、今やまたほとんどヒステリーを起しかねぬくらい怯えきりました。

(馬車で出かけて行くのを、この目で見たにもかかわらず)彼女は、またしても「ドミートリイ」がノックしているのだと思いこみました。

なぜなら、彼以外にこんな《無遠慮な》ノックをする者は一人もいないはずだったからです。

目をさまして、すでに門の方に向いかけていた門番のところへとんで行くと、彼女は中に入れないでくれと哀願しかけました。

しかし、門番はノックしている人間にいろいろ問いただして、相手がどういう人かを知り、きわめて重大な要件で「フェドーシヤ・マクコヴナ」に会いたい旨をきくと、ついに門を開けることにきめました。

「フェドーシヤ・マクコヴナ」の例の台所に入ると(その際にも彼女は《用心のため》、門番も立ち会わせてくれるよう、「ペルホーチン」に頼みました)、「ペルホーチン」は質問を浴びせはじめ、たちまちいちばん肝心の点にぶつかりました。

つまり、「ドミートリイ」は「グルーシェニカ」を探しにとびだす際、臼の中から杵をひっつかんで行ったのに、戻ってきたときにはもう杵はなく、両手を血だらけにしていたというのです。

「まだ血がたれていました。ぽたぽたと血がたれていました!」

明らかに、混乱した頭の中でこの恐ろしい事実を作りあげてしまったらしく、「フェーニャ」は叫びました。

しかし、血こそたれていなかったものの、血まみれの手は「ペルホーチン」自身も見ていましたし、洗い落すのを手伝ってもやりました。

それに問題は、血まみれの手がそんなに早く乾くかどうかということではなく、「ドミートリイ」が杵をつかんでいったいどこへ走ったのか、つまりたしかに「フョードル」のところへ行ったのかどうか、何を根拠にそれを断定的に結論できるか、という点でした。


「ペルホーチン」はこの点を詳細につきとめようとし、結果的には何一つ正確につかめなかったものの、とにかく、「ドミートリイ」が駆けつけた先は父親の家しかありえないし、とすればそこで必ず何事か(三字の上に傍点)起っているにちがいなとという確信に近いものを得ました。


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