「殺しに! それじゃ、あなたまで殺そうとしたんですか?」
「じゃ、だれかをもう殺したんですの?」
「おねがいです、奥さま、たった三十秒で結構ですからおききになってください、ごく簡単に万事を説明いたしますから」
「ペルホーチン」は毅然とした態度で答えました。
「実は今日の午後五時に、カラマーゾフ氏はわたしから友人のよしみで十ルーブル借りて行ったのです。ですからわたしは、彼が金を持っていなかったことをはっきり知っています。ところが同じ今日の九時に、彼は百ルーブル札の束を両手にこれ見よがしにつかんで、わたしの部屋に入ってきたんですよ。そう、ざっと二千か、あるいは三千ルーブルはありましたね。両手と顔が血まみれで、当人もまるで気が違ったみたいでした。どこからそんな大金を手に入れたんだと、わたしがきいたところ、彼はたった今あなたからもらってきた、なんでも金鉱へ行くためとかで三千ルーブルの額をあなたが貸してくださったと、正確に答えたのです・・・・」
「ペルホーチン」はここではまだ肝心なこと、つまりピストルを渡したことを言っていませんね。
「ホフラコワ夫人」の顔に、突然、並はずれた病的な不安の色がうかびました。
「まあ、たいへん! あの男は年とった父親を殺したんですわ!」
ついにここで父親を殺したと断言されましたね。
両手を打ち合せて、彼女は叫びました。
「わたしく、お金なぞ全然やっていませんわ、全然! ああ、すぐに駆けつけてあげて、どんで行ってあげてください・・・・もう一言もおっしゃらないで! あのご老人を救ってください、あの男の父親のところへ駆けつけてあげて!」
「失礼ですが、奥さま、そうしますと彼にはお金を用立てなかったのですね? 全然やらなかったと、たしかにご記憶なんですね?」
「やりません、やりませんでしたとも! 断ったのです、あの人はお金の値打ちを知りませんもの。かんかんになって、足を踏み鳴らしてましたわ。わたくしにとびかかろうとしたもので、わたくし、とびのきましたの・・・・今となればあなたには何一つ隠すつもりはございませんから、そういうお方として申しあげますけど、あの男はわたくしに唾を吐きかけさえしたんですのよ、考えてもくださいませな。それにしても、わたくしたちなんだって突っ立っているんでしょう? あら、お掛け遊ばせ・・・・ごめんなさい、わたくしとしたことが・・・・それとも、駆けつけていただくほうがよろしいかしら。あなたには、すぐに駆けつけて、気の毒な老人を恐ろしい死から救っていただかなければなりませんわ!」
「わたくしにとびかかろうとしたもので、わたくし、とびのきましたの」というのは、違うのではないでしょうか、実際は、怯えきって悲鳴をあげ、客間の向う端までとびすさったのでしたね。
「でも、もう殺してしまっていたら?」
「まあ、恐ろしいこと、本当に! それじゃ、これからどうすればいいでしょう? どうすればいいと、お考えになります?」

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