「それから、おわかりでしょうけれど」
彼女は舌足らずな口調で言いました。
「あちらで見たり聞いたりなさったことを、教えにいらしてくださいませね・・・・どんな事実が明らかになるか・・・・どんな判決が出て、どこへ流刑になるか。だって、わが国には死刑はないのでしょう? とにかく、夜中の三時でも、四時でも、いえ四時半でもかまいませんから、必ずいらしてください・・・・わたくしを起すようにおっしゃってくださいませ、起きないようだったら、たたき起せって・・・・ああ、わたしく、眠れそうもありませんわ。どうでしょう、わたくしもごいっしょに参らなくてもよろしいかしら?」
実におもしろいですね、この「ホフラコワ夫人」は「ドミートリイ」のことなど全然考えていませんし、自分の下世話な興味だけを臆面もなく主張しています、そしてその時々の気分そのままを隠そうともせず喋っているようです、(701)で書かれているようにかつて「ドミートリイ」は彼女のことを『おっそろしく生きがよくて、くだけているけど、それと同じくらい教養のない女だ』と形容したことがあります。
「とんでもない、それより、万一のために、ドミートリイ・フョードロウィチには一ルーブルもやらなかったということを、今すぐあなたの手で二、三行お書きになっておけば、むだではないかもしれませんね・・・・万一の用意に・・・・」
「それは絶対に必要ですわね!」
「ホフラコワ夫人」は感激してデスクのところにとんで行きました。
「それにしても、あなたにはほとほと感心いたしましたわ。頭が切れて、こういう問題をさばくのがお上手なのに、ただもう感じ入るばかりですわ・・・・この町にお勤めでらっしゃいますの? あなたのような方がこの町に勤めてらっしゃるなんて、ほんとに嬉しいことですわ・・・・」
さらに何やら言いながら、彼女は半ペラの便箋に手早く次のような文面を大きな字で書きました。
作者も彼女のことはどうでもいいというかのように、「さらに何やら言いながら・・・・」と会話を端折って書いていますね。
「半ペラ」とは「一枚の紙の半分」のことだそうです。
「わたくしは絶対に今日、三千ルーブルの金子を不幸なドミートリイ・カラマーゾフに(なぜならあの人はとにかく今や不幸なのですから)貸した覚えはございません。また、ほかにも一度としてお金を貸したことはありません! この世界のすべての神聖なものにかけて誓います。 ホフラコワ」
「はい、これが一筆!」
彼女はすばやく「ペルホーチン」をふりかえりました。
「それじゃ、すぐに行って、救ってあげてください。これはあなたのたいへんなお手柄ですもの!」
そして彼女は三度彼に十字を切りました。
さらに玄関まで送りに走りでてきました。
「あなたには本当に感謝しておりますのよ! 本気になさらないでしょうけれど、今や、わたくしのところへ真っ先にお寄りくださったことを、とても感謝していますわ。あなたとは前にお目にかかったことがございませんでしたかしら? これからも、わたくしどもにおいでいただければ、本当に光栄でございますけれど。それに、あなたがこの町にお勤めとうかがって、とても嬉しゅうございましたわ・・・・こんなに几帳面で、頭の切れるお方が・・・・ですけど、みんなもあなたの真価を認めるにちがいありませんわ、最後にはあなたを理解するはずですとも。わたくしだって、あなたのためにできることでしたら何でも。本当ですわ・・・・ああ、わたくし若い方って大好きですの! 若い方には夢中になりますのよ。若い方々こそ、現代の苦悩するロシア全体の基礎ですもの、希望ですもの・・・・さ、それじゃいらして、早くいらしてくださいまし!」
いつの間にか、「ペルホーチン」は彼女から最高の評価を受けるようになってしまいましたね。

0 件のコメント:
コメントを投稿