「ミーチャ、あたしを連れだして・・・・あたしを連れて行って、ミーチャ」
「グルーシェニカ」が力なくつぶやきました。
「ミーチャ」は駆けよるなり、両手に彼女を抱き上げ、この貴重な獲物をかかえてカーテンの奥に走りこみました。
『さて、僕はこれで帰ろう』
「カルガーノフ」はこう思い、青い部屋を出ると、ドアを二枚とも軽く閉めました。
しかし、広間の酒宴はにぎやかにつづき、いちだんと騒々しさをましました。
「ミーチャ」は「グルーシェニカ」をベッドにに横たえ、むさぼるようにその唇を吸いました。
「あたしにさわらないで・・・・」
彼女は祈るような声で甘く言いました。
「さわらないで。今はまだあなたのものじゃないのよ・・・・あなたのものと言ったけれど、さわらないでね・・・・堪忍して・・・・あの二人のいるところでは、あの二人のそばでなんて、だめよ。あの男はそこにいるんだもの。ここはいやらしいわ・・・・」
「言うとおりにするよ! もう考えない・・・・清く行こう!」
「ミーチャ」はつぶやきました。
「そう、ここはいやらしい、汚らわしいよ」
そして、彼女を腕の中に抱きしめたまま、ベッドのわきの床にひざまずきました。
「あたしにはわかっているわ。あなたは獣みたいだけれど、誠実な人ね」
「グルーシェニカ」が大義そうに言いました。
「こういうことは、人からとやかく言われないようにしなければ・・・・これからも、うしろめたくないようにしましょうね・・・・あたしたちも正直な人間になるのよ、いい人間になりましょうよ。獣じゃなく、いい人間に・・・・あたしを連れて行って、遠くへ連れて行って、ね・・・・ここはいやだわ、ずっと遠くへ・・・・」
「うん、そう、そうだね、必ずだ!」
この辺は自分自身にたいする「正直さ」や「誠実さ」がテーマになっているように思います。
「ミーチャ」はいっそう強く彼女を抱きしめました。
「連れて行くとも、いっしょに飛んで行こう・・・・ああ、あの血のことさえわかるなら、一年と引き替えに今すぐ一生を投げだすのに!」
「血って何のこと?」
「グルーシェニカ」が腑におちぬ様子できき返しました。
「何でもないんだ!」
「ミーチャ」は歯ぎしりしました。
「グルーシェニカ、君は正直にしようと言うけど、僕は泥棒なんだ。カーチカの金を盗んだんだよ・・・・恥だ、恥さらしだ!」
えっ、ここで「ドミートリイ」ははじめてお金を「カーチカ」から盗んだと白状しています、「カーチカ」つまり「カテリーナ」のことですね、これは単純な読者として読み進めているわたしにとっては意外でした、(761)でこう書きました、「普通に読んで考えられるように彼の持っている三千ルーブルはやはり「フョードル」のお金を盗んだのでしょうか」と、そして(762)では『もし老人が生きていたらどうする、どうしよう? そう、そのときはほかの恥辱をすっかり消すのだ。盗んだ金を返そう、たとえ地の底からでも見つけだして、返すんだ・・・・恥辱の痕は、わたしの心に永久に刻みつけられる以外、何一つ残らないだろう!』とあります、これらから彼は三千ルーブルを「フョードル」から盗んだものと思っていたのですが、それは違っていました、彼は自分で「カテリーナ」から盗んだと言っているのです、これははじめて読む人はみんな騙されるのではないでしょうか。

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