と突然、何か妙な気がしました。
まっすぐ前を見つめている彼女が、彼の顔ではなく、彼の頭の上の方を異様なほどじっと、食い入るように見つめているような気がしたのです。
ほとんど怯えに近いおどろきの色が、突然、彼女の顔にあらわれました。
「ミーチャ、あそこからこっちをのぞいてるの、だれかしら?」
ふいに彼女がささやきました。
「ミーチャ」はふりかえり、本当にだれかがカーテンをかきわけて、二人を眺めているらしいのに気づきました。
それも一人ではなさそうです。
彼はとび起きて、のぞいていた男の方へ早足につめよりました。
「こっちへ、こっちへいらしてください」
大声ではありませんが、有無を言わさぬ断固とした口調で、何者かの声が言いました。
「ミーチャ」はカーテンの奥から出るなり、棒立ちになりました。
部屋じゅう人で埋まっていましたが、さっきまでの連中ではなく、まったく新しい人たちでした。
瞬間的な悪寒が背筋を走り、彼は身ぶるいしました。
その人たちがだれであるか、一瞬のうちにわかったのです。
外套を着て、徽章のついた帽子をかぶっている、あの長身の太った老人-あれは郡の警察署長「ミハイル・マカールイチ」です。
それからあの《いつもぴかぴかの長靴をはいている》、《肺病やみの》、一分の隙もない洒落者は、検事補です。
『あいつは四百ルーブルもする高級時計を持っていて、いつも見せびらかしているんだ』
それから、あの若い小柄な、眼鏡の男は・・・・「ミーチャ」は名前を度忘れしましたが、その男を知っているし、会ったこともあります。
あれは《法律学校出》の予審調査官で、最近赴任してきたばかりです。
それと、こっちにいるのは、分署長の「マヴリーキイ・マヴリーキチ」です。
この男ならよく知っているし、懇意な仲です。
しかし、あのバッジをつけた連中は、あの連中は何のためにいるのだろう?
それからさらに二人、どこかの百姓たち・・・・向うの戸口には「カルガーノフ」と、宿の主人「トリフォン」の姿も見えます・・・・
「みなさん・・・・どうしたんです、みなさん?」
「ミーチャ」は言いかけましたが、突然、われを忘れ、自分を失ったかのように、精いっぱいの大声を張りあげて叫びました。
「わかったァ!」
ここで一旦区切りますが、とうとう恐れていたその瞬間が来ましたね、「ドミートリイ」を見つめていた「グルーシェニカ」が突然、彼の背後のカーテンの向こうの視線を感じて怯えるところは身ぶるいするくらい恐ろしい描写ですね。
やっと結ばれた二人が語り合う幻想的で濃密な愛の世界と沈黙した制服姿の大勢の異様な現実の世界がカーテン一枚はさんで接していたわけです。
カーテンの向こうに集まった人たちをまとめるとこうなります。
①郡の警察署長「ミハイル・マカールイチ」、②検事補、③予審調査官、④分署長「マヴリーキイ・マヴリーキチ」、⑤バッジをつけた連中、⑥二人の百姓、⑦「カルガーノフ」、⑧宿の主人「トリフォン」です。
十人はいるでしょう、あとで(784)すべてわかるのですが、②検事補は「イッポリート・キリーロウィチ」、③予審調査官は「ニコライ・パルフェーノウィチ・ネリュードフ」、⑤バッジをつけた連中は「村の警吏」、⑥二人の百姓はたぶん「証人」でしょう。

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