「この品物に見おぼえがありますか?」
彼は「ミーチャ」にそれを示しました。
「ああ、それか!」
「ミーチャ」は暗い微笑をうかべました。
「もちろん知ってます! ちょっと見せてください・・・・いや、畜生、いいです!」
「この話をするのを忘れましたね」
予審調査官が指摘しました。
「ちぇ、くそ! 隠すつもりはなかったんですがね、どうせそいつが出てこなけりゃすまないんでしょうから。そうでしょう? ちょいと度忘れしただけですよ」
「こんな凶器をお持ちになったいきさつをお話しながえませんか」
「長さ二十センチほどの小さな銅の杵」が凶器と言えるでしょうか、殺意があればもっと他の物を持つと思います。
「いいですとも、わかりました、みなさん」
そして「ミーチャ」は杵をつかんでとびだしたときのことを話しました。
「それにしても、こんな凶器を用意なさるにあたって、どういう目的を持ってらしたんです?」
「目的ですか? 目的なんてべつにありませんよ! ひっつかんで、とびだしたまでです」
「目的」というか、なぜあの時「ドミートリイ」が杵を「ひっつかんで、とびだした」のかは重要な点ですね、その場面は(710)に書かれていました、「ミーチャ」は走りながら突然その臼から杵をひっつかみ、脇ポケットにねじこむなり、そのまま姿を消しました、「フェーニャ」はそれを見て「まあ、たいへん、人殺しをする気だわ!」両手を打ち合せて叫んだのです、つまり目的というか、理由については書かれていません、無意識にそうしたのかもしれませんし、そのように書かれています、そこから殺意を導き出すには無理があるでしょう。
「目的がないとしたら、何のために?」
予審調査官たちは、すべての行動には何らかの意味があるという立場ですね。
「ミーチャ」の肚の中で怒りが煮えたぎっていました。
彼は《青二才》を食い入るように見つめ、敵意にみちた暗い笑いをうかべました。
ほかでもないが、たった今《こんな手合い》に対して、あれほど誠実に、あれほど真情を吐露して、自分の嫉妬の話をしたことが、ますます恥ずかしくなってきたのでした。
「杵なんぞ、どうだっていいでしょうに!」
だしぬけに彼は口走りました。
「それにしても」
「そう、犬を追い払うために持っていったんです。そう、暗いし・・・・まあ、万一の用心にね」
「そんなに暗がりがこわいとすると、これまでも深夜に外出なさるときは、やはり何か持っていらしたんですか?」
「えい、くそ、いまいましい! みなさん、あなた方とは文字どおり話もできませんな!」
極度の苛立ちにかられて「ミーチャ」は叫ぶと、書記をふりかえり、憎しみに顔を真っ赤にして、何か気違いじみた調子を声にひびかせながら、早口に言い放ちました。
「すぐに書くんだ・・・・今すぐ・・・・『杵をひっつかんで走ったのは、父親の・・・・フョードルの・・・・頭を一撃して・・・・殺すためだったとな。さ、これで満足しましたか、みなさん? 気が安まったでしょうに?」
挑戦的な目で予審調査官と検事をにらみつけて、彼は言い放ちました。

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