2018年7月5日木曜日

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「ミーチャ」は蒼白でした。

極度に興奮していたにもかかわらず、その顔はやつれきり、疲れはてた表情でした。

「あなたの気持がわかりかけてきました、ドミートリイ・フョードロウィチ」

検事が穏やかに、むしろ同情してさえいるかのように、間延びした口調で言いました。

「しかし、それらすべては、まあ、あなたの問題でしょうが、わたしに言わせると神経にすぎませんよ・・・・病的な神経です、そうですとも。それに、たとえば、ほとんどまる一ヶ月にも及ぶそれほどの苦しみから解放されるために、なぜあなたにお金を預けられたそのご婦人のところへ行って、千五百ルーブルをお返しになっちゃいけないんでしょうね。そして、その方と十分話し合われたあと、先ほどのお話のように当時のあなたの経済状態が実にひどかったことを考えるならば、どうしてごく自然に頭にうかんでくる構想を試みてみなかったんですか。つまり、あなたの過ちをその方にいさぎよく打ち明けたあと、なぜあなたの支出に必要な金額を頼んでごらんにならなかったんでしょう、そうすればその方だって、もともと寛大なお心の持主だし、あなたの窮状をごらんになれば、もちろん断わりはしなかったでしょうに。特に、借用証を書くとか、あるいは、いよいよとなれば、あなたが商人のサムソーノフやホフラコワ夫人に提供なさろうとした担保を保証にしたっていいじゃありませんか? だって、あなたは今でもあの担保を値打ちのあるものと見なしておられるんでしょう?」

「ミーチャ」は突然、真っ赤になりました。

「本当にあなたは僕をそれほどまで卑劣漢と思っているのですか? あなたが本気でそんなことを言うなんて、ありえない話だ!」

検事の目を見つめ、今耳にした言葉が信じられぬかのように、彼は憤りをこめて言い放ちました。

「はっきり申しあげますが、本気ですとも・・・・なぜ本気じゃないとお考えになるんです?」

今度は検事がびっくりする番でした。

「ドミートリイ」と検事の話は噛み合っていません、検事はお金をかりることと、そのお金をどう使うかということが別物だと考えています、しかし当事者である「ドミートリイ」にとっては単なるお金ではなく、意味のあるお金であり、心の中でそれを忘れることはできないのです、しかし両者の立場上から言えば当然の会話の成り立ちかもしれません。


「ああ、そんなことをしたら、それこそ卑劣じゃありませんか! みなさん、あなた方は僕を苦しめているってことが、わかってるんですか! わかりました、何もかも言いましょう。いいですとも、こうなったらもう僕の地獄に堕ちた心をすっかりさらけだしますよ。しかし、それはあなた方を恥じ入らせるためにです。人間のさまざまな感情の組合せが、どこまで卑劣になりうるものか、当のあなた方だってびっくりするでしょうよ。実はね、僕自身もそんな構想をいだいていたんです、今あなたがおっしゃったのと同じ構想をね、検事さん! そうなんです、みなさん、この呪わしいひと月の間ずっと、その考えが心にあったんです。そのために、ほとんどもうカーチャを訪ねる決心を固めかけていたほどでした、そこまで卑劣になっていたんです! しかし、あの人を訪ねて、僕の心変りを打ち明けたあげく、その心変りのために、金を頼んで(頼むんですよ、いいですか、頼むんですからね!)、そのあとすぐにほかの女と、あの人のライバルと、あの人の仇敵であり侮辱した当人である女と駆落ちするなんて-冗談じゃありませんよ、あなた正気ですか、検事さん!」


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