2018年7月6日金曜日

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「正気か正気でないかはともかく、もちろん、つい夢中になって・・・・女性の嫉妬には思いいたりませんでした・・・・あなたが力説なさるように、本当に嫉妬がそこに生じうるとしたら・・・・そう、おそらく、その種のことはあるでしょうね」

検事は「女性の嫉妬」と的外れなことを言っていますね、そういう問題もありますが、「ドミートリイ」の言っているのはそれ以前の個人的な問題なのです。

検事は苦笑しました。

「しかし、そんなことをしたら、あんまり汚なすぎますよ」

「ミーチャ」は凶暴に拳でテーブルをたたきました。

「いくら僕でも知らないほど、臭味のある行為になってしまう! あなた方にはわからないかもしれないけれど、あの人なら僕にその金をくれたはずです。そう、くれるでしょう、きっとくれたにちがいないんだ。僕を見返すためにくれたはずです。復讐の喜びと、僕に対する軽蔑からくれたにちがいない。なぜってあの人もやはり悪魔的な心の持主だし、深い怒りに燃えた女性ですからね! そして、この僕のことだからその金を受けとるにちがいないんだ。そう、受けとるでしょうね、受けとりますとも、そうしたら一生涯・・・・ああ、やりきれない! すみません、みなさん僕がこんなにどなるのも、ついこの間まで、ほんの一昨日、夜中にセッターのやつにてこずらされたときに、そんな考えをいだいたからなんです。そのあと、昨日も、そう、昨日も一日じゅう、忘れもしませんが、例のあの事件が起るまで・・・・」

「ドミートリイ」は「カテリーナ」のことを「あの人もやはり悪魔的な心の持主」と言いましたね、これは誰もがそういう一面があり、いくらみんなから尊敬されている彼女もその中のひとりであるにすぎないと彼が思っているということです、そして「深い怒りに燃えた女性」とは潜在意識の問題でしょうか。

「どの事件です?」

どの事件なんでしょうか、「僕がこんなにどなるのも、ついこの間まで、ほんの一昨日、夜中にセッターのやつにてこずらされたときに、そんな考えをいだいたからなんです。そのあと、昨日も、そう、昨日も一日じゅう、忘れもしませんが、例のあの事件が起るまで・・・・」とありますが、「例のあの事件」とは何でしょうか、読み返してもわかりませんでしたが、「そんな考え」とはたとえば(693)の「父の家のドアが秘密めかしく開き、その戸口に「グルーシェニカ」が走りこむ・・・・」という「ドミートリイ」の悪夢のことであり、「例のあの事件が起るまで・・・・」とは、「グルーシェニカ」に愛されているという予想外の至福を確信したことでしょうか。

「ネリュードフ」が好奇心を示して口をはさみかけましたが、「ミーチャ」は耳もかしませんでした。

「僕はあなた方におそろしい告白をしたんです」

暗い顔で彼はしめくくりました。

「そこを買ってください、みなさん。いや、それだけじゃ足りない、買ってくれるだけじゃまだ足りない。買ってくれなくたっていいから、重要さを認めてください。それがだめなら、もしこの告白まできき流されてしまうようなら、もはやあなた方はまったく僕に敬意を払ってくれないことになりますよ、みなさん、僕はあえてそう言います。そして、あなた方みたいな人に告白をした恥ずかしさに、死んでしまいますよ! そう、ピストル自殺をするんだ! 僕にはもうわかってます、わかってますとも、あなた方は僕の言葉を信じてくれないんだ! なんですか、こんなことまで記録するつもりですか?」

すでに怯えだ様子で彼は叫びました。

「ええ、今あなたがおっしゃったことをね」

「ネリュードフ」がいぶかしげに彼を見つめました。

「つまり、あなたがごく最近まで相変わらずカテリーナさんのところへ、それだけの金額を借りに行くつもりでおられた、いうことをです・・・・はっきり言って、これはわれわれにとって非常に重大な供述なんですよ、ドミートリイ・フョードロウィチ、つまり、この事件全体に関してですね・・・・それから特にあなたにとって、とりわけあなたにとって重大なんです」

「この事件全体に関して」ごく最近まで相変わらず「カテリーナ」に千五百ルーブルを借りに行くつもりでいたということが、どう重要なんでしょうか。

「とんでもない、みなさん」

「ドミートリイ」は両手を打ち鳴らしました。

「せめてこれだけは書かないでください、恥を知るもんですよ! だって僕は、いわばあなた方に前に心を真っ二つに割ってみせたんですよ、ところがあなた方はそれをいいことにして、両方の切り口を指でひっかきまわしてるんだ・・・・ああ、やりきれない!」

「せめてこれだけは書かないでください」とは、「カテリーナ」に千五百ルーブルを借りに行くつもりだったということですね。


彼は絶望にかられて両手で顔を覆いました。


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