「そんなに心配なさらないでください、ドミートリイ・フョードロウィチ」
検事が結論を言いました。
「今記録されたことはすべて、あとであなた自身にきいていただきますし、同意いただけぬ個所があれば、あなたのお言葉どおりに訂正しますから。ところで、これがもう三度目なのですが、同じ質問をくりかえさせてください。ほんとうにだれも、だれ一人として、お守り袋に縫いこんだ金のことをあなたからきいた者はいないのですか? あえて申しあげますが、ほとんど想像できない話ですのでね」
権力というものは、こういう場合、相手から都合のいい供述を引き出すためにはどんな嘘も平気でつくのではないかと思いますが、そう言った嘘が何の罪もないように扱われるのは間違っていますね、この検事のように歯の浮いたようなお世辞を使いながら自分の作ったストーリーを完成させよとする態度は虫酸が走ります、そして「三度目」の質問になると言っていますが、一つ目は(821)の「あなたはこれまでにその事情を、せめてだれかに告げておかれなかったんですか・・・・つまり、ひと月前のそのとき、千五百ルーブルを手もとに残しておいたことをですね?」「だれにも話してません」というところだと思いますが、二度目がみあたりません、(825)で彼は自ら「この千五百ルーブルの件は、弟のアリョーシャにさえ打ち明ける決心がつかなかったし」とは言っていますがこのことでしょうか、このしつこい質問は大変重要なことはわかりますが、「ドミートリイ」はだれにも話していないと言っているのですから、その袋をどこに捨てたかを聞いてすぐにそれを探しに行くのが筋ではないでしょうか。
「だれも、一人もいないと言ったでしょうに。でなけりゃ、あなたが何もわからなかったんだ! もう僕にかまわないでください!」
「いいでしょう、この問題ははっきりさせなけりゃなりませんのでね、まだこの先、時間は十分ありますから。しかし、とりあえずよく考えてごらんなさい。この前使った三千ルーブルのことを、千五百じゃなく三千ルーブルのことを、まさしくあなたが自分で吹聴し、行く先々で強調してさえいたという証言が、われわれの手もとには、おそらく何十も集まっているんですよ。それに今度だって、ゆうべ大金が現れてた際に、あなたはやはりすかさず大勢の人に、また三千ルーブル持ってきたぞと触れまわっているんですかね・・・・」
「何十どころか、何百という証言を握っているんでしょうに。二百の証言をね、二百の人間がきいてましたからね、いや、千人もの人がきいているんだ!」
「ミーチャ」は叫びました。
「だってそうでしょうが。みんながそう証言しているんですよ。みんな(三字の上に傍点)という言葉は、やはり何事かを意味するんじゃないでしょうか?」
「何も意味するもんですか。僕がはったり(四字の上に傍点)を言ったら、それを受けてみんながでたらめを言うようになったまでです」
まったく意味のない会話ですね。
「しかし、何のために、あなたの言葉を借りるなら、そんな《はったり》を言う必要があったんですか?」
「そんなこと、わかるもんですか。見栄かもしれませんね・・・・そう・・・・そんな大尽遊びをしたという・・・・あるいは、袋に縫いこんだ金を忘れるためかもしれないし・・・・そう、まさしくそのためですよ・・・・畜生・・・・いったい何度その質問をくりかえすんです? そう、はったりを言ったんです、もちろん、一度はったりを言ったら、もう訂正するのがいやだったんですよ。人間てやつはどうしてときおりでたらめを言うんでしょうね?」

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