2018年9月11日火曜日

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「第一、僕は吹きこまれなくても、自分で理解できますし、第二に、いいですか、僕が今、古典作家はみんな翻訳されていると言ったのは、コルバスニコフ先生自身が三年生全員に公然と言ったことなんですよ」

「お医者さまがお見えになったわ!」

終始沈黙していた「ニーノチカ」が、だしぬけに叫びました。

「コーリャ」対「アリョーシャ」の戦いがおもしろいところですが、中断されますね。

たしかに、「ホフラコワ」夫人の自家用の箱馬車が門に横付けにされました。

午前中ずっと医者を待ちわびていた二等大尉が、あたふたと出迎えに門に走りました。

《かあちゃん》は衣紋をつくろって、もったいらしい顔つきになりました。

「アリョーシャ」は「イリューシャ」のところへ行き、枕を直してやりはじめました。

「ニーノチカ」は、彼がベッドをととのえているのを、肘掛椅子がら、心配そうに見守っていました。

少年たちは急いで別れを告げはじめ、何人かは晩にまた寄ってみると約束しました。

「コーリャ」が「ペレズヴォン」に声をかけ、犬はベッドからとびおりました。

「帰らないよ、帰らないからね!」

「コーリャ」が大急ぎで「イリューシャ」に言いました。

「玄関で待ってて、お医者さんが帰ったら、また来るよ。ペレズヴォンといっしょに来るから」

だが、医者はすでに入りかけていました。

熊の毛皮外套を着こみ、長い黒い頬ひげをたくわえ、下顎を艶々と剃った、偉そうな人物でした。

敷居をまたぐなり、彼は呆然として、ふいに立ちどまりました。

きっと、違う家に来たと思ったのでしょう。

「何だ、これは? ここはどこなんだ?」

毛皮外套をぬごうともせず、オットセイの毛皮の庇のついてオットセイの皮帽子もとろうとせずに、医者はつぶやきました。

人々の群れや、部屋の貧しさ、片隅の綱に下げた下着などが、彼を面くらわせたのです。

二等大尉は医者に向ってばったのようにおじぎをしました。

「ここでございます、ここでよろしいので」

へつらうように彼はつぶやきました。

「ここで、手前どもでございます、手前どもにお越しいただきましたので・・・・」

「スネギリョフさんかね?」

医者が大きな声で重々しく言いました。

「スネギリョフさんというのは、あなたですか?」

「はい、わたくしで」

「ああ!」

医者はもう一度うとましげに部屋を眺めまわし、毛皮外套をぬぎすてました。

首に吊した荘厳な勲章がみなの目を射ました。

二等大尉が毛皮外套を宙で受けとめ、医者は帽子をぬぎました。

「で、患者はどこです?」


頑固そうに大声で医者がたずねました。



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