「ほんとに先生をへこませなすったので?」
二等大尉がおもねるように調子を合わせました。
「それは、だれがトロイを創ったかという、あの一件でござんすね? それでしたら、先生をへこませなすったことは、わたしらもききましたですよ。イリューシャがあのとき話してくれましたもので・・・・」
「パパ、その人は何でも知っているんだ、学校じゅうでいちばん物知りなんだよ!」
「イリューシャ」も相槌を打ちました。
「あんなふりをしているだけで、どの学課でもいちばんできるんだ・・・・」
「イリューシャ」は限りない幸福をおぼえながら、「コーリャ」を見つめました。
「トロイのことなんか下らないよ、些細なことだもの。僕自身もあんな問題は無意味だと思ってるんだ」
誇らしげな謙虚さで、「コーリャ」は答えました。
彼はもうすっかり調子が出ていましたが、それでもいくらか不安でした。
自分がひどく興奮しており、たとえば鵞鳥の話にしても、あまりにも夢中になりすぎたのを感じていました。
ところが、「アリョーシャ」は話の間ずっと黙りこんで、きまじめな顔をしていたので、自尊心の強い少年はしだいに気がかりになってきました。
『あの人が黙っているのは、僕があの人にほめてもらいたがってるなんて思って、軽蔑してるせいじゃないだろうか? もし、そんな思い上がったことを考えているんだとしたら、こっちだって・・・・』
「僕はあんな問題はまるきり無意味だと思ってるんだ」
もう一度誇らしげに彼は言いすてました。
「でも僕、だれがトロイを創ったのか、知ってるよ」
突然、これまでほとんど何も言わなかった、無口な、見るからに内気そうな、十一歳くらいの、たいそうかわいい顔をした「カルタショフ」という苗字の少年が、まったく思いもかけずに口走りました。
この少年は戸口のすぐわきに坐っていました。
「コーリャ」はびっくりして、重々しく少年を眺めやりました。
ほかでもない、『トロイを創ったのはいったいだれか?』という問題は、今やすっかり全クラスの秘密となり、それを解くには、「スマラグドフ」を読まなければなりませんでしたが、「スマラグドフ」の本は「コーリャ」以外にだれも持っていなかったのです。
(350)で「フョードル」が「スメルジャコフ」に「じゃ勝手にしろ。貴様ってやつはどこまで下男根性なんだ。待て、それじゃスマラグドフの『世界史』はどうだ、これなら本当のことばかりだぞ、読んでみろ」と言っていますが、この「スマラグドフ」なのでしょうか。
ところが、あるとき「カルタショフ」少年は、「コーリャ」がわきを向いている間に、急いで彼の本の間にあった「スマラグドフ」を開き、いきなりトロイの創始者のことが書いてある個所にぶつかったのでした。

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