これはもうかなり以前のことでしたが、自分もトロイの創始者を知っているとみんなに明かすのが、やはり何か照れくさく、決心がつきませんでしたが、そのことで何か妙な結果になりはせぬか、「コーリャ」が自分に恥をかかせはしまいかと、心配でもありました。
それなのに今、なぜかふいに我慢をしきれずに、言ってしまったのです。
それに、ずっと前から言いたくてならなかったのです。
「じゃ、だれが創ったんだい?」
「コーリャ」は見くだすように横柄にその方をふりかえりましたが、すでに相手の顔から本当に知っていることを読みとって、もちろんすぐさま、あらゆる結果に対して心構えをしました。
ここでも、見事な描写がされていますね。
みんなの気分に不協和音とも名づくべきものが生じました。
「トロイを創ったのは、テウクロスと、ダルダノスと、イーロスと、トロースです」
少年はひと息にはっきり言ってのけ、とたんに真っ赤になりました。
あまり真っ赤になったので、見るのが気の毒なほどでした。
しかし、少年たちはなおもその子をひたと見つけつづけ、まる一分くらい見つめてから、ふいにその目がいっせいに「コーリャ」にふり向けられました。
「コーリャ」はさげすむような冷静さで、なおもこの不遜な少年をじろじろと眺めていました。
「つまり、その人たちがどうやって創ったんだい?」
彼はやっと言葉をかけてやりました。
「それに、都市なり国家なりを創るってのは、どういう意味なんだい? じゃ、なにかい、その人たちがやってきて、煉瓦でも一つずつ積みあげたっていうのかい?」
どっと笑い声があがりました。
わるいことをした少年の顔は、バラ色から真紅に変わりました。
少年は黙りこみ、今にも泣きだしそうでした。
「コーリャ」はさらに一分ほど少年をそのままさらしものにしておきました。
「民族の成立というような歴史的事件を語るには、何よりもまず、それが何を意味するかを理解しなけりゃいけないよ」
訓戒のために彼はきびしく言いました。
「もっとも僕は、そんな女子供の作り話なんぞ、重要と見なさないけれどね。それに概して僕は世界史なんか、たいして尊重していないんだよ」
ふいに今度はもうみんなに顔を向けて、彼は投げやりに付け加えました。
「世界史を、ですか?」
突然、なにかぎょっとしたように、二等大尉がたずねました。
「ええ、世界史をです。あれは人類の一連の愚行の研究にすぎませんからね。僕が尊重するのは数字と、自然科学だけです」
「コーリャ」は気どって言い、ちらと「アリョーシャ」を見ました。
この席で彼の意見だけを恐れていたからです。
しかし、「アリョーシャ」は終始、沈黙し、相変わらずきまじめな顔をしていました。
今「アリョーシャ」が何か言いさえすれば、それで片がついたのだろうが、「アリョーシャ」は黙っていたし、『その沈黙は軽蔑のしるしかもしれなかった』ので、「コーリャ」はもはやすっかり苛立ってしまいました。

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