2018年10月10日水曜日

923

「でも、兄は殺していませんよ」

やや語気鋭く「アリョーシャ」はさえぎりました。

不安ともどかしさがますます強く彼をとらえるばかりでした。

「存じてますとも、殺したのはあのグリゴーリイ老人ですわ」

「グリゴーリイですって?」

「アリョーシャ」は叫びました。

「あの男です、グリゴーリイですわ。ドミートリイ・フョードロウィチに殴られて倒れはしたものの、やがて起きあがって、ドアが開いているのを見ると、入りこんで行ってフョードル・パーヴロウィチを殺したんですわ」

「でもなぜ、何のためにです?」

「心神喪失になったからです。ドミートリイ・フョードロウィチに頭を殴られたあと、意識を取り戻すと、心神喪失を起して、出かけて行って殺したんですわ。当人は殺したりしないと言い張っていても、そんなことはたぶんおぼえていないんでしょうね。ただ、ドミートリイ・フョードロウィチが殺したんだとしたら、やはりそのほうがずっとすてきですわ。それに、事実そうなんですもの。あたくしグリゴーリイの犯行だなんて言いはしましたけれど、きっとドミートリイ・フョードロウィチが殺したんですわ、そのほうがずっと、ずっとすてきですもの! まあ、すてきと言ったのは、息子が父親を殺したからじゃありませんわ。あたくし、そんなことをほめたりしません、とんでもない、子供は親を敬わなければいけませんもの。ただ、お兄さまの犯行だとしたら、やっぱりすてきですわ。だって、そうなれば、あなたは何一つ泣くことはありませんものね。お兄さまはわれを忘れて、と言うより、ちゃんとおぼえてはいても、どうしてそんなことになったかわからぬまま、殺したからですわ。そう、お兄さまを無罪にさせるんですわ。それこそ実に人道的ですし、新しい裁判の恩恵を目のあたりに見ることになりますものね。あたくし存じませんでしたけれど、もうだいぶ以前からそういう裁判なんですってね。昨日それをきかされて、あたくしすっかり感激してしまって、すぐにあなたのところへお迎えを出そうと思ったほどですのよ。そしてやがて、お兄さまが無罪になったら、法廷からまっすぐあたしの家の祝宴にお連れして、親しい方たちを集めて、新しい裁判のために乾杯しようじゃありませんか。あたくし、お兄さまが危険な人物だなどと思っておりませんし、それにお客さまをうんとたくさんおよびしますから、万一お兄さまが何かなさろうとしても、いつでもつまみだせますもの。やがてお兄さまはどこか別の町で、治安判事か何かにおなりになる。だって、みずから不幸に会った人は、だれよりも正しく裁いてくれますものね。何よりも、今の時代に心神喪失でない人などいるものでしょうか。あなただって、あたくしだって、みんな心神喪失ですわ。例はいくらでもありますもの。それまでおとなしく坐って、ロマンスなんぞきいていた人が、突然何かが気に入らずに、ピストルをつかむなり、たまたまそこにいた人を射ち殺したんですって。でもあとで、すべて赦されるんですわ。そんな話をこの間読みましたけど、医者もみんな裏付けていましたわ。医者もこのごろはのべつ裏付けだの、確認だのばかりやっていますわね。そうそう、うちのリーズも心神喪失ですわ。あたくし、つい昨日もあの子のために泣かされましたし、おとといもそうですわ。ところが今日になって、あれは心神喪失にすぎないんだと思い当りましたの。ああ、リーズはほんとに悩みの種ですわ! まるきり気が変になったんじゃないかと、思いますわ。なぜあの子はあなたをおよびしたんでしょう? あの子がおよびしたんでしょう、それともあなたがご自分からいらしてくださったんですの?」


「ホフラコワ夫人」の話は凄いとしか言えませんね、とてもまともな会話だとは思えません、いったい何を言いたいのでしょうか、「ドミートリイ」が殺したと言ったかと思うと「グリゴーリイ」が殺したと言ってみたり、心神喪失という言葉が気に入ったのか、あなたもわたしもみんなも心神喪失だと言ったり、さっぱり訳がわかりません、かと思うと「ドミートリイ」が殺したとした方が「すてき」だと自分の感情をまじえて訳の分からぬことを言いだしたり、しかし、しっかりしているところはしっかりしており「リーズ」が「アリョーシャ」を家に呼んだかどうかについてはしっかりと「アリョーシャ」に確認しています。



0 件のコメント:

コメントを投稿