2018年10月9日火曜日

922

「僕は今日、どうしても時間内に兄のところへ駆けつけなければなりませんので」

「アリョーシャ」がたどたどしく言いかけました。

「そうですわ、そうですとも! やっとすべて思いださせてくださいましたわ! あのね、心神喪失って何のことですの?」

「心神喪失って?」

「アリョーシャ」はびっくりしました。

「裁判で言う心神喪失ですわ。すべて赦してもらえるという、あの心神喪失です。どんなことをしても、すぐ赦してもらえるんですって」

「でも、何のためにそんなことを?」

「つまり、こういうわけなんです。あのカーチャが・・・・ああ、あの人はほんとにかわいらしい方ですけど、ただ、あの人がだれに恋しているのか、あたくしにはさっぱりわかりませんのよ。この間もここへいらしたんですけれど、あたくし何一つ探りだせませんでしたわ。おまけに、あの人はこのごろあたくしとは当りさわりのない話ばかりなさるようになって、一口に言えば、あたくしの健康のことばかり話して、それ以上は何も言いませんもの、おまけによそ行きの口調で。ですからあたくしも内心、どうぞご勝手に、お好きになさい、と言ってたんですわ・・・・あら、まあ、心神喪失の話でしたわね。あのお医者さまがいらしたでしょう。お医者さまがいらしったことは、ご存じですわね? もちろんご存じのはずですね、精神異常の鑑定をなさるお医者さまですわ、あなたがおよびになったんですもの。いえ、つまり、あなたじゃなく、カーチャが。何もかもカーチャですわね! だって、そうでしょう、まったく気違いじゃない人がいて、突然その人が心神喪失になるんですの。正気も失わず、自分のしていることもわかっているけれど、それにもかかわらず心神喪失なんですわ。だからドミートリイ・フョードロウィチも、きっと心神喪失でしたのね。新しい裁判が開かれるようになって、すぐに心神喪失ということに気づいたんですって。これは新しい裁判の恩恵ですわ。そのお医者さまもあたくしに、あの夜のことや、金鉱のことを、いろいろおききになりましたわ。そのとき彼はどんな様子だったかって。心神喪失にきまってますわね。入ってくるなり、金だ、金がほしい、三千ルーブルだ、三千ルーブル貸してくれなどと、わめきちらしたあげく、とびだして行って、人を殺すなんて。殺す気はない、殺したくないと言っていながら、突然殺してしまったんですもの。内心では抵抗を感じていたのに、殺してしまったという、まさにその点でお兄さまは赦されますわ」


「ホフラコワ夫人」は前から「カテリーナ」と「イワン」を結び付けたいと思っています、ですから「ドミートリイ」の裁判の件で彼女がいろいろと世話を焼いているのが不満なのですね、そして「ドミートリイ」が「・・・・入ってくるなり、金だ、金がほしい、三千ルーブルだ、三千ルーブル貸してくれなどと、わめきちらしたあげく、とびだして行って、人を殺すなんて。」と言っていますが、それは全くの妄想ですね、(702)で「ドミートリイ」が入ってきたときに彼女は、「ほんとにお待ちしてましたのよ! あなたがいらしてくださるなんて、考えることもできませんでしたわ、そうじゃございませんこと。それでも、わたくしお待ちしてたんですの。わたくしの勘のよさにびっくりなさるでしょ、ドミートリイ・フョードロウィチ。わたくし、今日こそあなたがいらしてくださるにちがいないって、朝からずっと信じてましたのよ」と言って迎えていますし、彼も最初は「精いっぱいのお世辞」で対応していました。


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