「人間には犯罪を好む瞬間がありますからね」
「アリョーシャ」が考えこむように言いました。
「そう、そうよ! あたしの考えをぴたりと言ってくださったわ。人間は犯罪が好きなのよ。だれだって好きなんだわ。そういう《瞬間》があるどころか、いつだって好きなのよ。ねえ、このことになると、まるでその昔みんなで嘘をつこうと申し合せて、それ以来ずっと嘘をついているみたいね。悪事を憎むなんてだれもが言うけれど、内心ではだれだって好きなんだわ」
「相変らずよくない本を読んでるんですね?」
「読んでいるわ。ママが読んで、枕の下に隠しておくから、失敬してくるの」
「自分を台なしにするようなことをして、よく気が咎めませんね?」
「あたし、自分を台なしにしたいの。この町にいる男の子で、列車が通りすぎる間、レールの間に伏せていた子がいるんですってね。幸せな子だわ! だってね、今あなたのお兄さまは父親殺しの罪で裁かれようとしているでしょう、ところがみんなは、父親殺しという点が気に入っているのよ」
「父親殺しという点が気に入ってる、ですって?」
「そうよ、みんなが気にいっているわ! 恐ろしいことだなんて、だれもが言ってるけど、内心ではひどく気に入ってるのよ。あたしなんか真っ先に気に入ったわ」
「世間の人たちに関するあなたの言葉には、いくぶんかの真実がありますね」
「アリョーシャ」が低い声で言いました。
「まあ、そんな考えを持っているの!」
「リーザ」が感激して叫びました。
「お坊さんだというのに! あなたは信じないでしょうけど、あたしとってもあなたを尊敬するわ、アリョーシャ、それはね、あなたが決して嘘をつかないからよ。ああ、あなたにあたしの見たおもしろい夢を話してあげるわ。あたし、時々、悪魔の夢を見るの。なんでも夜中らしいんだけど、あたしは蝋燭をもってお部屋にいるのね。そうすると突然、いたるところに悪魔が出てくるのよ。どこの隅にも、テーブルの下にも。ドアを開けると、ドアの外にもひしめき合っていて、それが部屋に入ってきてあたしを捕まえようと思っているんだわ。そして、すぐそばまでやってきて、今にも捕まえそうになるの。あたしがいきなり十字を切ると、悪魔たちはみんなこわがって、あとずさるんだけど、すっかり退散せずに、戸口や隅々に立って、待ち構えているのよ。ところがあたしは突然、大声で神さまの悪口を言いたくてたまらなくなって、悪口を言いはじめると、悪魔たちはふいにまたどっとつめかけて、大喜びしながら、またあたしを捕まえそうになるんだわ。そこで突然また十字を切ってやると、悪魔たちはみんな退却していくの。すごくおもしろくて、息がつまりそうになるわ」
この夢は将来に起こりうる何かを暗示しているようにも思えますが、それとも内心の葛藤を表しているのでしょうか。
「僕もよくそれとまったく同じ夢を見ますよ」
だしぬけに「アリョーシャ」が言いました。
「ほんと?」
「リーザ」がおどろいて叫びました。
「ねえ、アリョーシャ、からかわないで。これはひどく重大なことよ。違う二人の人間がまるきり同じ夢を見るなんてことが、ほんとにあるかしら?」
「きっとあるでしょうよ」

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