記されていることもただ、現在これほど世間を騒がせて裁判が行われようとしている犯人は、退役陸軍大尉で、態度の不遜な怠け者で、農奴制の支持者であって、のべつ情事にひたり、特に一部の《孤閨の淋しさをかこつ上流夫人たち》にもてた、という程度にすぎませんでした。
「態度の不遜な怠け者」という表現は面白いのですが、《孤閨の淋しさをかこつ上流夫人たち》というのも面白いですね、また「ホフラコワ夫人」はこの《孤閨の淋しさをかこつ上流夫人たち》を自分のことだと勘違いしているのですね。
《孤閨の淋しさをかこつ未亡人》の一人で、すでに年ごろの娘をもつ身でありながら、ひどく若作りのさる婦人なぞは、この男にぞっこん熱をあげて、犯行のわずか二時間前に、今すぐ金鉱に駈落ちしようという条件で、三千ルーブルを提供しようとしたほどでした。
私は勘違いをしていました、この「すでに年ごろの娘をもつ身でありながら、ひどく若作りのさる婦人」で「犯行のわずか二時間前に、今すぐ金鉱に・・・・」というのは、まさに「ホフラコワ夫人」ではないですか、私は間違っておりました、「駈落ち」のことは完全に間違いですが。
だがこの悪党は、淋しさをかこつ婦人の四十近い爛熟美にひかれてシベリヤに行くよりは、むしろ完全犯罪をもくろんで、父親を殺し、まさに同じ三千ルーブルを強奪するほうを選んだのです。
またまた「四十近い爛熟美」というこれまた面白い表現がされています。
このふざけた記事は、型どおり、父親殺しやかつての農奴制の非道徳性に対するもっともらしい憤りで結ばれていました。
好奇心まじりに読み終えると、「アリョーシャ」は新聞をたたんで、「ホフラコワ夫人」に返しました。
「もちろん、あたくしのことですわね?」
夫人がふたたび舌足らずな口調で言いました。
「だって、これはあたくしのことですわ。あたくし、一時間ほど前にあの人に金鉱をすすめたんですもの、それが突然《四十近い爛熟美》だなんて! ほんとにあたくしがそんな下心だったと思っているんでしょうか? これはいやがらせに書いたんですわ。神さま、四十近い爛熟美などと書いたあの男をお赦しくださいまし、あたくしが赦しているように。それにしても、これは・・・・だれが書いたか、ご存じですの? これはあなたのお友達のラキーチンですわ」
「かもしれません」
「アリョーシャ」は言いました。
「もっとも僕は何もきいていませんけど」
「あの男ですよ、あの男です。かもしれない、じゃありませんわ! だって、あたくし、あの男を追いだしてやったんですもの・・・・その一件はご存じでしょう?」
「今後出入りせぬようにとあなたがおっしゃったことは知っていますが、いったいどういう理由でかは、僕は・・・・少なくともあなたからは伺っていません」
「してみると、あの男からおききになりましたのね! どうでした、あの男、あたくしの悪口を言っているでしょう、ひどく悪く言ってますでしょう?」
「ええ、悪く言っています、でも彼はだれのことでも悪く言いますからね。ただ、どうして出入りをさしとめられたのかは、彼からもききませんでした。それに大体、僕はめったに彼とは会いませんし。べつに友達じゃないんです」
「アリョーシャ」は「ラキーチン」と「友達じゃない」と言ってしまいましたね。
「じゃ、何もかも打ち明けますわ。仕方がありません、懺悔します。だって、あたくし自身にも罪があるかもしれぬような点があるんですもの。ごく些細な、ほんのちょっとしたことで、ことによるとまったく取るに足らぬようなことかもしれませんけれど。実はね、あなた」
「ホフラコワ夫人」は突然なんとなくはしたない態度になりました。
口もとに、謎めいてこそいるが愛くるしい微笑がちらつきました。
「実はあたくしの想像だと・・・・ごめんなさい、アリョーシャ、あたくしあなたに母親のような気持で・・・・いいえ、そうじゃないわ、反対にあたくし今、父親に対するような気持でおりますの・・・・だってこの場合、母親なんて、まるきりふさわしくございませんものね・・・・そう、ゾシマ長老に懺悔するのと同じ気持、これがいちばん正確で、とてもしっくりしますわ。だってさっきあなたをスヒマ僧とおよびしたくらいですもの。ところで、あなたのお友達の、あの気の毒なラキーチン青年(ああ、あたくしどうしてもあの人を怒る気になれませんわ! そりゃ怒って、むかっ腹を立ててはいますけれど、たいしたことはありませんのよ)、でまあ、一口に言うと、あの軽薄才子が突然、どうでしょう、あたくしに恋をする気になったらしいんですの。あたくし、だいぶあとになってからやっと、ふいに気づいたんですけど、最初のうち、つまりひと月ほど前から、あの人は妙に足しげく、ほとんど毎日のように訪れるようになりましたのよ、もっとも前から知合いではあったんですけど。あたくし何も知らなかったんですけれど、突然、なにか啓示でも受けたみたいに、気づくようになってびっくりしましたわ。・・・・
「ホフラコワ夫人」の話が予想外に長いので会話の途中ですがこの辺でいったん切ります、これではもう「五分」はとっくに過ぎていますね。

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