2018年11月14日水曜日

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「殺すなんてことは、あなたはご自分では絶対にできなかったし、そんな気もありませんでしたが、だれかほかの人間が殺してくれたらと、それをあなたは望んでらしたんです」

「よくもしゃあしゃあと、平気でそんなことを言えるもんだ! どうして俺がそんなことを望むんだ、どういう理由で望むんだよ?」

「どういう理由で望むかですって? じゃ、遺産はどうなんです?」

「スメルジャコフ」はなにか復讐的にさえひびく口調で、毒々しく、これを受けました。

「だってあのときお父さまが死ねば、あなた方三人兄弟のそれぞれに四万ルーブル弱ずつ入るはずです、あるいはそれ以上かもしれません。ところが、あのときもし大旦那さまがアグラフェーナ・アレクサンドロヴナと結婚なされば、あのご婦人は式のあとすぐに全財産をご自分の名義に移されたことでしょうよ。なにしろ、とても頭のいい人ですから。そうなれば、あなた方三人兄弟はお父さまが亡くなられても、ただの二ルーブルも手に入らないはずだったんです。それにあのとき、その結婚はおよそ手の届かぬ話だったでしょうか? 間一髪だったじゃございませんか。あのご婦人がこんなふうに小指でちょいと招きさえすれば、大旦那さまはすぐさまあとに従って、まっしぐらに教会に駆けこんだはずですからね」

四万ルーブル、つまり四千万円ですね。

「イワン」は苦しい思いで自分を抑えました。

「よかろう」

やっと彼は言いました。

「このとおり、俺は跳ね起きてお前を殴りもしなければ、殺しもしなかった。その先を言え。つまり、お前に言わせると俺は、兄貴のドミートリイをその仕事に予定し、兄貴を当てにしていたというんだな?」

「だって、お兄さまを当てにせぬはずはないでしょうに。とにかくお兄さまが人殺しをすれば、とたんに貴族のいっさいの権利も、官位も財産も剥奪されて、流刑になるんですからね。そうすれば、お父さまの死後、お兄さまの分はあなたと弟のアレクセイ・フョードロウィチに等分に残されるわけですから、つまりお二人はそれぞれ、もはや四万ルーブルどころか、六万ルーブルずつ入ることになるんです。ですもの、あのときあなたはたしかにドミートリイ・フョードロウィチを当てにしていらしたにちがいないんです!」

「おい、俺は我慢してきいてやってるんだぞ! いいか、悪党、かりに俺があのときだれかを当てにしていたとすれば、もちろんそれはドミートリイじゃなく、お前だよ。誓ってもいいが、お前が何か汚ない真似をしそうな予感さえしたんだ・・・・あのとき・・・・俺はその印象をおぼえている!」

ここの部分は(556)の「今も彼はいまわしい苛立たしい感じをおぼえて、無言のまま、スメルジャコフを見ぬようにして木戸をくぐろうとしかけたのですが、スメルジャコフがベンチから立ちあがり、その動作一つを見ただけてイワンはもう一瞬のうちに、相手が何か特に話したがっているのを察しました。」から、(557)の「自分でも思いがけなく、彼は低い声で神妙に言うと、これもまったく思いがけなく、ひょいとベンチに腰をおろしました。一瞬、恐怖に近い気持をおぼえたのを、彼は後日思いだしました。」に続きます、そこで「スメルジャコフ」の発した言葉「「なぜ、チェルマーシニャへ行こうとなさらないんです?」が物語の展開の鍵をにぎります、つまり「スメルジャコフ」はもうこの時点で、「ドミートリイ」が父親を殺すだろうということを予想しており、そのことを「イワン」も自分と同じように思っていると思っており、そのために「ドミートリイ」の殺害を促すためには「イワン」が父親の家から出て行って不在の方がことが決定的に運ぶと思っているのでしょう、「スメルジャコフ」は「イワン」との強い意思の疎通を意識していたわけですが、「イワン」の方はそうではなく、仮に「スメルジャコフ」と意思の疎通があったとしても、それは彼の無意識の部分がそうさせたのではないかと、自分では思っているのかもしれません。

「わたしもあのとき、ほんの一瞬間、あなたがわたしのことも当てにしてらっしゃる、と思いましたよ」

「スメルジャコフ」が嘲るように笑いました。

「ですから、そのおかげであなたはあのとき、わたしに対していっそうはっきり本心を暴露なさったんです。だって、わたしに対して何か予感なさりながら、同時にお発ちになったとすれば、つまりそれによってわたしに、親父を殺してもいいぞ、俺は邪魔だてせんからと、おっしゃったも同然ですからね」

「卑劣漢め! そうんなふうにとったのか!」


私もその考えは「スメルジャコフ」の誤解だと思います、自分の願望のようなものが「イワン」に投射されているようです、「イワン」は別にお金に困っている状態でもありませんし、父親が死んでもいいなどと思うはずはないでしょう。


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