「すべて、例のチェルマーシニャのおかげでございますよ。考えてもごらんなさいまし! あなたはモスクワへ行くおつもりで、チェルマーシニャへ行ってくれというお父さまのあらゆる頼みを断わっていらしたんですよ! それが、ばかなわたしのたった一言でふいに承知なさったんですからね! 何の必要があって、あのときチェルマーシニャ行きを承知なさったんです? わたしのたった一言で、何の理由もなしに、モスクワではなく、チェルマーシニャへいらしたからには、つまり、何かをわたしに期待してらしたわけじゃありませんか」
「スメルジャコフ」は「・・・・それが、ばかなわたしのたった一言でふいに承知なさったんですからね!」と言っていますが、これはどこの部分でそう言ったのでしょうか、(959)でも「スメルジャコフ」は「わたしがあなたをモスクワからチェルマーシニャへ方向変えさせようとしたからには、つまりあなたに近くにいていただくことを望んだわけで、・・・・」と自分がチェルマーシニャ行きを決心させたかのように言っています、はじめは(571)で「フョードル」の発言「と、つまり、行ってくれるんだな、行くんだな? じゃ、すぐに一筆書くから」に対して、「イワン」は「行くかどうか、わかりませんよ。途中で決めます」と自ら決めると言っていたのを「スメルジャコフ」がチェルマーシニ行きの方に決定づけたということなんですが、直接的な言い方はどこにもないように思います、(564)で「イワン」は「そんなことを言ったあとで、俺にチェルマーシニャ行きをすすめたりするんだ? それでいったい何を言いたかったんだ? 俺が行ってしまったあと、ここでそんなたいへんなことが起るんじゃかいか」と自ら言っているということは、どこかでそう言っているのかもしれません、または(572)で「イワン」は幌馬車に乗りこんでから、「どうだ・・・・これからチェルマーシニャへ行くんだぜ」と「スメルジャコフ」に言っていますが、これはわざわざ「スメルジャコフ」の進めに同意したということでしょうか。
「違う、誓ってもいいが、そんなことはない!」
歯ぎしりしながら、「イワン」はどなりました。
「どうして違うんでしょう? それどころか、本来ならば、あなたはお父さまの息子なのですから、わたしのあのときの言葉をきいたら、何よりもまず警察に突きだして、笞打ちの刑にするか・・・・少なくともその場ですぐ横面を張り倒すなりして当然のはずです。ところが、とんでもない、あなたは反対に、少しも怒らぬばかりか、すぐさま愛想よく、わたしのいたって愚かな言葉どおりそのまま実行して、お出かけになったんです。これはどうも解せない話じゃございませんか。なぜって、あなたは当然、お父さまの生命を守るために、とどまるべきだったんですからね・・・・どうして勘ぐらずにいられますか?」
「イワン」は眉をひそめ、ひきつけを起こしたように両手で膝に突っぱったまま、坐っていました。
「そう、あのとき、横面を張り倒さなかったのが残念だよ」
彼は苦々しく笑いました。
「あのとき、警察へ突きだすことはできなかったさ。だれも信じちゃくれないだろうし、何の証拠もあげられないからな。しかし、横面を張り倒すのなら・・・・くそ、思いつかなかったのが残念だよ。たとえ、鉄拳制裁が禁じられていたって、お前のその面をめちゃくちゃにしてやったところなんだが」
「スメルジャコフ」はほとんど楽しんでいるような目で、「イワン」を眺めていました。
「人生の普通の場合には、ですね」
彼はいつぞや、「フョードル」の食卓の給仕をしながら、「グリゴーリイ」と信仰について議論し、相手をやりこめたときと同じく、自己満足した理屈屋らしい口調で言いました。
(358)に食卓での「スメルジャコフ」の理屈が書かれています。
「人生の普通の場合には、鉄拳制裁は現在ではたしかに法律で禁じられていますし、だれもが殴らなくなりました。しかし、特殊の場合には、わが国に限らず、世界じゅうで、あのもっとも完全なフランス共和国にしても、やはりアダムとイブのころのように、相変らず殴りつづけていますし、これはいつの世になってもなくなりますまいよ。ところがあなたは、あのときみたいな特殊の場合にも、その勇気がなかったじゃありませんか」

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