2019年2月7日木曜日

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「イッポリート」の論告の続きです。

「・・・・さてスメルジャコフのたくらんだ殺害の当日がやってくる。彼は癲癇の発作という仮病を使って(六字の上に傍点)倒れます。何のためにでしょうか? もちろん、まず第一に、治療を思いたっていた召使のグリゴーリイが、家を番する人間がまったくいないことに気づいて、おそらく治療を延期し、見張り番に立ってくれるためにです。第二はもちろん、当の主人がだれも番をしていないことに気づいて、かねて公言していたとおり息子の来るのをひどく恐れ、不信と警戒を強めてくれるためにです。そして最後に、何より肝心な点ですが、もちろん、発作で倒れた彼、スメルジャコフが、いつもみんなと別に寝起きしている、専用の出入口のある台所から、離れの反対側のはずれにあるグリゴーリイの部屋へ移してもらうためであります。昔から癲癇の発作が起こるとすぐ、主人と親切なマルファとの指図で、グリゴーリイの部屋の、夫婦の寝室から三歩ほどのところにある衝立のかげに寝かされるのが、きまりになっていたからです。そこの衝立の奥に寝ながら、彼はおそらく、なるべく病人らしく見せるために、もちろん呻きはじめる、つまり、夜どおしみんなを起しておこうとしはじめるのです(グリゴーリイとその妻の証言でも、そのとおりでした)。そして、これらすべてが、なんとあとで突然起きだして主人を殺しに行くのに、なるべく都合よくするため、ということになるのであります! しかし、もしかすると、病気の自分に嫌疑がかからぬように仮病を使ったのかもしれないし、金や合図のことを被告に教えたのは、被告が誘惑にのってみずから乗りこみ、殺害するためにちがいない、と言う人もなかにはあるでしょう。しかも、被告が殺人を犯して立ち去り、金を持ち逃げするとなれば、その際におそらく騒々しい物音をたて、証人たちの目をさませるだろうから、そしたらスメルジャコフも起きだして、行ってみるつもりだったのだ、と。しかし、それならいったい何をしに行くのでしょうか? ほかでもない、主人をもう一度殺して、すでに持ち去られた金をあらためて盗みだしに行くことになるのです。みなさん、あなた方は笑っておいでですね? わたし自身もこんな推理をめぐらすのは気がひけます。が、それにもかかわらず、どうですか、まさに被告の主張しているのは、こういうことなのです。自分がグリゴーリイを殴り倒して騒ぎを起してから、もう屋敷を逃げだしたあとになって、スメルジャコフが起きだして、出かけて行き、殺して、金を奪ったのだ、と言っているのであります。いったいどうしてスメルジャコフが事前にそこまですべて計算できたか、すべてを、つまり苛立ち憤った息子がもっぱらうやうやしく窓からのぞくだけの目的で乗りこんで、せっかくの合図を知りながら、獲物をそっくりスメルジャコフに残して退散することを、予見できたのか、などということはもはや申しますまい! みなさん、わたしはまじめに問題を提起します。いったいどこに、スメルジャコフが犯行をやってのける機会があるでしょう? その機会を示していただきたい、なぜならそれなしに彼を有罪にすることはできないからです。『ことによると、癲癇は本物だったかもしれない。病人はふいに意識をとり戻し、叫び声をきいて、出て行ったのだ』と言う人もいるでしょう。それで、どうなったのでしょうか? 様子を見て、よし、行って主人を殺してやろう。と自分に言ったのでしょうか? しかし、どうして彼は屋敷の様子を、屋敷で起ったことを知ったのでしょう? それまで彼は意識不明で寝ていたのではありませんか? しかし、みなさん、空想にも限度があります。・・・・」

一旦切ります。

「治療を思いたっていた召使のグリゴーリイが」とはどういう意味でしょうか、あとの文章を読むと、「治療をしようとしていた」ということですね。

また、「イッポリート」はもって回った言い方ではありますが「スメルジャコフ単独犯説」を否定しています、「スメルジャコフ」が倒れたことによってもたらされた三つのことを述べています、①「グリゴーリイ」を見張番に立たせた、②「フョードル」がより警戒心を持った、③自分の部屋を二人の寝室に移動してもらった、以上によりこれらすべては、「スメルジャコフ単独犯説」を否定する根拠というわけです。

さらにまた「イッポリート」は他に考えられる根拠にも反論しようとします、①病気の自分に嫌疑がかからぬように仮病を使ったのかもしれない、②金や合図のことを被告に教えたのは、被告が誘惑にのってみずから乗りこみ、殺害するためにちがいない→①も②も、お金はすでに被告が持ち去っているのでこれらはありえませんね、しかし①については「スメルジャコフ」が「ドミートリイ」の犯行を確かなことと認識していたならが、ありうることですね。

ここで「スメルジャコフが、いつもみんなと別に寝起きしている、専用の出入口のある台所」とありますが、「スメルジャコフ」の部屋は「台所」だったようですね。

「イッポリート」は「いったいどこに、スメルジャコフが犯行をやってのける機会があるでしょう?」と言い、「それまで彼は意識不明で寝ていたのではありませんか?」と言っていますが、その時「スメルジャコフ」は「聞き耳を立てていた」と自分で言っていました、それは「イワン」との会話しているところですが、(969)に以下のように書きました。

わたしは例の寝床に寝かされました、衝立のかげに寝かされることはちゃんとわかっていたんです。なぜって、わたしが病気になると、マルファはいつも寝る前に自分の部屋のあの衝立のかげに、わたしの寝床を作ってくれてましたからね。あの人はわたしが生れたときからいつもやさしくしてくださっていたんです。わたしは夜中に呻きました、ただ低い声でね。ドミートリイ・フョードロウィチの来るのをずっと待ち受けていたんです」(953)に「グリゴーリイの妻マルファは、イワンの質問に対して、スメルジャコフが夜どおし衝立一つへだてた、《わたしどもの寝床から三歩と離れぬ》ところで寝ていたことや(訳注 前出の個所では隣の小部屋にスメルジャコフが寝かされたことになっていたが、このあと第七章のスメルジャコフの告白から考えても、同じ部屋の衝立の奥に寝かされていたと解釈するほうがよいだろう)、彼女自身ぐっすり眠ってはいたものの、隣で「スメルジャコフ」が呻くのをきいて、何度も目をさましたことを、はっきりと述べました。」とあり、普段「スメルジャコフ」は離れの、「グリゴーリイ」と「マルファ」の部屋に隣合った小部屋で寝起きしているのですね、またこれも(953)に書きましたが、「『小部屋』については、(575)で「病人は離れの、グリゴーリイとマルファの部屋に隣合った小部屋に寝かされました。」、(714)の「癲癇に倒れたスメルジャコフは、隣の小部屋で身動きもせずに寝ていました。」、(781)の「目ざめを促したのは、隣の小部屋に意識不明のまま寝ているスメルジャコフの、恐ろしい癲癇の悲鳴でした。」と「寝ぼけまなこで跳ね起きると、彼女はほとんど夢中でスメルジャコフの小部屋にとんで行きました。」、(782)の「灯をつけて見ると、スメルジャコフはいっこうに発作の鎮まる様子もなく、自分の小部屋でもがいており、目をひきつらせ、唇から泡が流れていました。」、つまり「スメルジャコフ」の寝かされた場所は前に訳注で言われていたとおり作者の間違いですね、ただ訳注には「このあと第七章のスメルジャコフの告白から考えても・・・・」と書かれていますが、このことは「七 二度目のスメルジャコフ訪問」ではなく「八 スメルジャコフとの三度目の、そして最後の対面」で書かれていますね、また、「わたしは夜中に呻きました、ただ低い声でね。」というのは、「ドミートリイ」の来やしないかと聞き耳を立てていたのですね。


以上です。


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