二 危険な証人たち
検事側と弁護側の証人が裁判長によってグループ分けされていたのか、またどういう順番で喚問する予定になっていたのか、わたしは知りません。
おそらく、そうなっていたのでしょう。
わたしにわかっているのは、最初に検事側の証人が喚問されたことだけであります。
くりかえしておきますが、わたしはすべての尋問を逐一ここに記すつもりはありません。
おまけに、わたしの記述はある意味で余分のものになってしまうにちがいありません。
なぜなら、検事と弁護人が弁論にとりかかるに及んで、それまでに供述し聴取されたすべての証言の経過と意味とが、それぞれの弁論の中で、鮮明な特徴的な照明をあてられて、さながら一点に集約された感があるからです。
この双方の卓抜な弁論をわたしは、少なくとも部分的には完全に書きとめておいたので、いずれお伝えするつもりでいますし、また弁論のはじまる前に突然起り、裁判の宿命的な恐ろしい結末に疑いもなく影響を与えた、ある異常な、まったく思いもかけぬエピソードも、同様にいずれお伝えします。
またここで作者は語り手に託して話を盛り上げますね、つまり、この裁判の内容は集約された一点にしぼられるということ、そして、これからすぐに、この裁判の結果に影響をあたえるほどの異常な、思いがけないことが起るということです、何のことやら全く想像がつきませんので興味が湧いてきますね。
ここではただ、裁判のごく最初の瞬間から、この《事件》のある一種特別な特徴がくっきりと浮きだし、だれもがそれに気づいたということだけ、指摘しておきます。
ほかでもない、弁護側の持っている材料にくらべて、検事側の方が度はずれに力を持っていたのです。
この恐ろしい法廷でさまざまな事実が濃厚さを増しながら集まりはじめ、いっさいの恐怖と血潮とがしだいに表面に浮きあがってきた最初の瞬間に、だれもがそのことを理解しました。
ことによるとすべての人が最初の一歩から、これはまるきり争う余地のない事件であり、ここには何の疑点もないのだから、実際には弁護人などまったく必要なさそうなものだが、単に形式上弁論を行うだけであり、被告は有罪なのだ、それも明白に決定的に有罪なのだ、ということを納得しはじめたにちがいありません。
この興味深い被告の全面的な有罪をあれほどやきもきして待ち望んでいた婦人たちも、一人残らずみな、一方では被告の全面的な有罪を心から確信していたとさえ、わたしは思います。
ここのところはよくわかりません。(1000)で「概してはっきり断言できることでありますが、婦人たちとは反対に、男性側はすべて被告に反感を持っていました。」と書かれていたように、婦人たちは「ドミートリイ」に対して好意をもっているわけですので、ここで「被告の全面的な有罪をあれほどやきもきして待ち望んでいた」という表現はおかしいのではないでしょうか。
そればかりではなく、もし被告の有罪がさほど立証されなかったとしたら、婦人たちはがっかりしたのではないか、という気さえします。
なぜなら、そうなると被告が無罪放免になるというハッピーエンドに、それほどの効果がなくなってしまうからです。