一杯ずつ飲み干しました。
しかし、一刻を争うような状況だったはずですが、こんなところで飲んでいていいのでしょうか。
「ミーチャ」は喜びに気もそぞろといった様子でしたが、なんとなく沈みがちでした。
まるで、何か征服しえぬ重苦しい心配事が心にわだかまっているかのようでした。
「ミーシャだ・・・・あそこへ入ってきたのは、君のとこのミーシャだろ? おい、ミーシャ、ミーシャ、ここへ来て、一杯飲んでくれ、明日の朝の、金髪のポイボスのために・・・・」
「なんだってその子になんぞ!」
「ペルホーチン」が苛立たしげに叫びました。
「いいじゃないか、そうだろう、僕が飲ませたいんだから」
「ちぇ!」
「ミーシャ」は飲み干すと、一礼して走り去りました。
「あの子は末永くおぼえていてくれるだろうさ」
「ミーチャ」が言いました。
「僕は女が好きだ、女が! 女とはいったい何だい? 地上の女王だよ! 僕は悲しい、悲しいよ、ピョートル・イリイチ。ハムレットをおぼえているだろう。『悲しい、実に悲しいよ、ホレーショ・・・・ああ、哀れなヨーリック!」
ことによると、僕はヨーリックかもしれない。
まさしく今の僕はヨーリックだな、髑髏になるのはもう少し先だけれど」
私は「ハムレット」を読んだことがないので、何のことかさっぱりわかりませんので、ネットで調べたあらすじを載せておきます。
「デンマークのエルシノア城では、夜ごと、ものものしい警戒が行われていた。というのも、ノルウェーとの緊張が日増しに高まっていたからである。そんなさなか、衛兵の前に、先王ハムレットの亡霊が現れる。王子ハムレットは留学先から、新王の戴冠式・結婚式に参列するために戻っていたのだが、父王の死からまだ立ち直らないうちに、母の再婚である。もともとメランコリー気質のハムレットはますます陰鬱になり、自殺さえ考えている。そこに、父王の亡霊の知らせである。その知らせを受けたハムレットは胸騒ぎがしてならない。ハムレットはさっそく深夜、城壁に立つ。時刻どおり亡霊は現れ、ハムレットに向かって、現王クローディアスに毒殺されたときの模様を語る。
その日からハムレットは人間がすっかり変わってしまった。王は、いつもと様子の違うハムレットが気掛かりでならない。そこで、学友のローゼンクランツとギルデンスターンを呼びつけ、ハムレットの様子をうかがわせることにするが、ポローニアスは、王子の錯乱は、娘のオフィーリアに失恋したせいだと言いはる。ハムレットは、探りを入れに近づくポローニアスやローゼンクランツたちに、ときには狂人のように、ときには悩める若者のようにふるまい、尻尾をつかませない。
そこに旅役者の一行が到着し、ハムレットは、さっそく好きな悲劇のひとこまを聞かせてもらう。お気に入りの役者が、自分のことでもないのに涙を流し、声を震わせるのを見て、ハムレットは激しくこころを動かされ、父に復讐を誓ったくせに、なにひとつ行動できない自分を責める。王が手を下したというたしかな証拠を掴むべく、亡霊から聞いた殺害の場面を、王の前で旅の一座に演じさせることを思いつく。
恋わずらい説を捨てきれないポローニアスは、オフィーリアをハムレットに会わせ、その様子を壁掛けの陰から立ち聞きしようとする。そこへ王子が、生きること、死ぬことの疑問を自問しながらやってくるが、オフィーリアに気づくと、突然、彼女に向かって毒を含んだことばを投げつけて、走り去る。これを聞いていた王は、狂気の装いの奥に危険なものを感じとり、イギリスへ貢ぎ物の督促にやるという口実で、やっかい払いをしようと決心する。
王宮の広間は、これから芝居が始まるというので、華やいだ空気に包まれている。ハムレットはいつになく上機嫌で、オフィーリアをからかったりする。芝居の内容は、ハムレットがあらかじめ指図しておいたものだ。王殺害の場面になると、王はうろたえ、席から立ち上がり、恐れおののいてその場を去る。証拠を掴んだハムレットは、お祭り気分で歌まで歌い、今ならどんな残忍なことでもやれると言う。にもかかわらず、王妃に呼ばれて部屋へゆく途中、罪の懺悔をしている王を見かけ、剣まで抜いたのに、祈りの最中ではわざわざ天国へ送り届けるようなものだと、復讐を先延ばしにしてまう。
王妃の居間に入ると、ハムレットは母に向かい、情欲のとりことなって、神のような父を忘れ、見下げはてた男へと走ったことを責め立てるが、壁掛けの奥で物音を聞きつけ、王と勘違いして、ポローニアスを刺し殺す。それを聞いた王は、ハムレットを一刻も早くイギリスへやり、そこで暗殺させようと図る。
父を亡くしたオフィーリアは、正気を失い、歌を歌ったり、取り止めもないことを口走ってばかりいる。父の訃報をうけ、フランスから駆けつけたレアティーズを見ても兄と分からず、たわいなく人々に花を配る妹に、レアティーズは激しく取り乱す。そこへ、イギリスで殺されているはずのハムレットから手紙が届いたので、王はレアティーズを利用して、無傷で帰国したハムレットを葬り去ろうと企てる。ふたりが話している最中に、突然、オフィーリアの溺死が知らされる。
ハムレットは、墓地であたらしい墓穴を掘る墓掘りと話すうち、土から掘り出された昔なじみのヨリックの骸骨を見て、人間のいのちのはかなさを思う。墓は溺死したオフィーリアのものだった。妹の死骸を抱いて大げさに嘆くレアティーズを見て、ハムレットは、何万人の兄よりもオフィーリアを愛していたと叫び、つかみ合いの喧嘩になる。
宮廷に戻り、ハムレットがホレイシオに、船旅でのできごとの一部始終を話していると、レアティーズから剣の試合に誘われる。ハムレットは一瞬、いやな予感がするが、すべては天命と割り切り、試合に出かけ、レアティーズと腕試しを始める。この試合はハムレットを葬るため、王によって仕組まれたものだった。切っ先を丸めてない剣で刺されて、初めて策略に気づき、剣を奪って、レアティーズを刺し返す。そこへ、王妃が苦しみだし、ワインに毒が入っていることを告げて、息絶える。次には、レアティーズが、みずから剣先に塗った猛毒で死ぬはめになった、と告白し、王にこそ罪があると訴えて死ぬ。逆上したハムレットは、剣で王を刺し、毒杯を飲ませ、王を殺すが、すでにからだ中に毒はまわり、口も自由にきけなくなっていた。折しも、ポーランドから凱旋中のノルウェー王子を迎える砲声が聞こえる。ハムレットはホレイシオにあとを託し、フォーティンブラスをデンマーク王に推すと、息を引き取る。ハムレットの遺体が高々とかかげられ、弔砲とどろくなか、劇は終わる。」
以上が「ハムレット」のあらすじでした。
この中で「ハムレットは、墓地であたらしい墓穴を掘る墓掘りと話すうち、土から掘り出された昔なじみのヨリックの骸骨を見て、人間のいのちのはかなさを思う。」とあり、「ドミートリイ」はこの骸骨になった「ヨリック」だと言っているのですね。
「ヨリック」の登場するセリフとしては以下のものがあるようです。
HAMLET. Alas, poor Yorick! . . . Where be your gibes now? your gambols? your songs?
(かわいそうなヨリック!おまえの毒舌はどこへいった?おまえの踊りは、歌は、どこへいった?)
どくろを手にしてハムレットがつぶやく、絵になる場面だ。
HAMLET. Imperious Caesar, dead and turn'd to clay,
Might stop a hole to keep the wind away.
(かの皇帝シーザーも、死して土に還り、穴をふさいで、風を絶つ、か。)
ハムレットはヨリックのどくろを見て、どんなに偉大な人間も土に還れば、ビア樽の栓になりかねないことを知り、人間のいのちのはかなさを苦々しく茶化した。
面白そうですので、いずれ読んでみたいです。
「ペルホーチン」は黙ってきいていました。
「ミーチャ」もちょっと黙りました。
「それは何という犬だい?」
突然彼は、部屋の隅にいた、目の黒い小さなかわいい狆に気づいて、ぼんやりした口調で店員にたずねました。
「あれは店のワルワーラ奥さまの狆でございます」
店員が答えました。
「奥さまが先ほど連れてらして、店に忘れていかれましたので。返しにまいらねばなりませんのです」
「これと同じような犬を見たことがあったな・・・・連隊で・・・・」
考えこむように「ミーチャ」が言いました。
「ただ、そいつは後肢を折っていたっけ・・・・ピョートル・イリイチ、ついでに君にきいておきたいんだけど、君はこれまでに人の物を盗んだことがある、それとも全然ない?」
「なんて質問をするんです?」
私もここでどうしてそんな質問をするのか彼の意図がわかりません。
「いや、ただなんとなくね。つまり、だれかのポケットからとか、人の物をとかさ? 僕の言うのは公金のことじゃないよ、公金ならだれでもくすねるからね。君だって、もちろん、そりゃ・・・・」
「いい加減にしろよ」
「僕の言っているのは、人の物のことなんだ。文字どおりポケットなり、財布なりからさ、え?」
「一度、母から二十カペイカ銀貨を失敬したことがあるよ。九つのときだったな、テーブルの上にあったやつをね。こっそり取って、猫ばばしちまったんだ」
「それでどうした?」
「どうってことはないさ。三日間あっためといたけど、気がとがめたんで、白状して、返したよ」