「どうしたんです?」と「アリョーシャ」が声をかけます。
「それなのに俺は今日、お前に声をかけて、ここへ引っ張りこんだんだ、この今日という日をおぼえとくんだぜ-それも、やはり今日カテリーナ・イワーノヴナのところへお前を差し向けるためになんだ・・・」
「何しに?」
「彼女にこう言ってもらうためにさ、俺は今後もう絶対に彼女のところへは行かないから、よろしくとのことでしたってな」
「そんなことができますかね?」
「できないからこそ、代理としてお前を差し向けるんじゃないか。でなけりゃ、どうして俺が自分の口からそんなことが言えるね?」
「で、兄さんはどこへ行くんです?」
「裏街さ」
「それじゃ、グルーシェニカのところへですね?」と「アリョーシャ」は両手を打って、悲痛に叫びました。
そして「だったら、ラキーチンの言ってたのは本当だったんですか?僕はまた、兄さんはちょっと通っていただけで、おしまいにしたのかとばかり思っていたのに」と。
「ドミートリイ」は「アリョーシャ」を「代理としてお前を差し向ける」と言うのですが、今ここで二人が会ったのも偶然のことですので、話の勢いとしても調子のいい言い方ですね。
彼の頭の中は、いろんなことがぐるぐるとせめぎあっていて、これでなければあれ、あれでなければこれというようにあらゆる可能性が検討されているのでしょう。
そして、「・・・この今日という日をおぼえとくんだぜ・・・」と言うように、今日が「ドミートリイ」の重大な決断の日なのです。
しかし、まだ「ドミートリイ」は「グルーシェニカ」とうまくいくとは限らないわけですし、そもそもまだ今は三角関係の真っ最中なので五分五分といったところに過ぎないわけですので、相手のためにも自分のためにも余計に今の時点で自分の意思を表明しておく必要があったのでしょう。
このように「ドミートリイ」の頭の中は、自分自身に対する嫌悪感とやり切れなさや不安の他に「カテリーナ」に対する憐憫の情、「グルーシェニカ」への愛情と不信、「フョードル」への対抗意識と憎悪などあらゆる感情が渦巻いてものすごいことになっています。